120.彼女を仕事に送る

ただ、彼女は藤堂澄人が否定しなかったことに驚いた。

「奥様、朝食の準備ができましたので、召し上がってください」

九条結衣はダイニングテーブルに座り、山本叔母さんの呼び方を訂正しようと思ったが、それがあまりにも意図的で気取っているように感じられ、考え直して諦めた。ただ山本叔母さんに「ありがとうございます」と言った。

「奥様、どういたしまして。私の作った料理を食べに来てくださって、とても嬉しいです」

山本叔母さんは藤堂お婆様と同様に、言葉の端々に彼女と藤堂澄人を引き合わせようとする意図が感じられた。

しかし、もう戻れないことがあるのだ。この二人が善意でそうしているのは分かっているが、彼女はこの無意味なことを気にかけていなかった。

朝食を済ませると、彼女は席を立って辞去した。