彼女は重要なポイントを選んで話し、藤堂澄人が激怒すると思っていたが、彼女の言葉を聞いた時、彼は軽く眉を上げただけで「彼女が離婚したくないと言ったのか?」と尋ねた。
藤堂瞳は彼の口調に気付かず、そう聞かれてますます告げ口に熱が入った。
「そうよ、お兄ちゃん。九条結衣がどれだけ厚かましいか分からないわ。藤堂家の若奥様の座にしがみついているなんて、こんな恥知らずな人がいるなんて信じられない」
藤堂瞳は藤堂澄人の心中を読み取れなかったが、傍らにいた木村靖子は見抜いていた。
彼女は先ほどから藤堂澄人の表情に注目していたので、怒りで引き締まっていた彼の表情が、藤堂瞳が九条結衣の離婚拒否を伝えた時に、明らかに和らいだのを見逃さなかった。
それほど明確ではなかったが、彼女にはしっかりと見えた。
彼女は分かっていた。九条結衣の言葉は藤堂瞳を脅すためのものではなく、離婚請求を取り下げれば、澄人が本当に彼女と仲直りし、以前のように冷たくすることはないと分かっていたからだ。
そのことを考えると、木村靖子は心が動揺した。彼女の目標は九条家に戻ることの他に、藤堂澄人と結婚することだった。そうすることでしか、九条結衣を完全に打ちのめし、彼女から受けた屈辱を全て返すことができないのだから。
そのために、これほどの犠牲を払い、これほどの計画を立ててきたのに、もし九条結衣が藤堂家の若奥様の座に安泰でいられるのなら、何の意味もない。
そう考えながら、彼女は機会を捉えて言った。「澄人さん、実はこれは九条先生のせいではありません。主に瞳ちゃんの言い方が直すぎて九条先生の怒りを買ってしまったんです。九条先生は少し注意しただけです。澄人さん、瞳ちゃんはあなたの言うことなら一番よく聞きますから、よく諭してあげてください。手術したばかりなので、あまり興奮しない方がいいと思います」
木村靖子の言葉は巧妙だった。表向きは九条結衣の味方をして藤堂瞳を責めているようで、実際には藤堂澄人に、九条結衣が手術直後の藤堂瞳の体調を考えずに怒らせたことを暗に伝えていた。
これで一石二鳥だった。藤堂澄人の好感度を上げながら、同時に九条結衣の告げ口にも成功した。