九条結衣が病室を出たとき、ちょうど向かってくる藤堂澄人とばったり出会った。彼女は冷たい目で彼を一瞥し、藤堂瞳のことを思い出すと心の中でイライラが募り、藤堂澄人の顔から視線を外すと、隣の病室へと向かった。
藤堂澄人が来たとき、九条結衣の顔に浮かんでいたイライラと不機嫌さがすべて彼の目に入った。彼女が先ほど藤堂瞳の病室から出てきたことを考えると、藤堂瞳が九条結衣を困らせるような言葉を言ったのだろうと自然に想像でき、表情が一気に曇った。
重い足取りで藤堂瞳の病室へ向かうと、ドアの外でちょうど藤堂瞳の怒り声が中から聞こえてきた——
「あの女は兄さんに捨てられた女じゃない?何が偉そうなのよ。兄さんに捨てられた元妻なのに、まだ藤堂家の若奥様になれると思ってるの?夢見すぎよ、あの女...」
藤堂澄人は険しい顔でドアを開けると、木村靖子が藤堂瞳の背中をさすっているのが目に入った。表面上は彼女を落ち着かせようとしているように見えたが、最初から最後まで一言も言わず、明らかに藤堂瞳に九条結衣の悪口を言わせっぱなしにしていた。
藤堂瞳の顔色は白く、病的なほど蒼白だったが、あの声量から判断すると、病状に影響はないようだった。
木村靖子は藤堂澄人がこのタイミングで来るとは思っていなかった。藤堂瞳の背中をさすっていた手が一瞬止まり、彼の険しい黒い瞳から放たれる鋭い冷気を見て、彼女の目に一瞬の動揺が走った。
「お兄さん、ちょうどよかった」
藤堂瞳は藤堂澄人の目の中の厳しさに気付かず、すぐに藤堂澄人に告げ口を始めた。「お兄さん、あの九条結衣がひどいの。私を罵ったのよ。あんな女、何様のつもり?私を罵るなんて...」
「あんな女って、何様だって?」
藤堂澄人は冷たい表情で、氷のような不機嫌な口調で藤堂瞳の言葉を遮った。
藤堂瞳は一瞬固まった。やっと藤堂澄人の身から放たれる凛とした気配に気付き、その深い黒い瞳には今にも爆発しそうな怒りが押し込められているのが分かった。
「彼女はお前の義姉だ」
藤堂澄人の冷たい目は、威圧的な迫力で藤堂瞳の目を直視した。「前にも言っただろう。俺の言葉を聞き流していたのか?」