ちょうどトイレで、九条初のクラスメートが同じプテラノドンの衣装を着ていたので、彼女はクラスメートの母親と子供を交換する理由を見つけて出てきた。危なかった。幸い、藤堂澄人は疑わなかった。
「社長」
「藤堂社長、お仕事は片付きましたか?」
向かい側の吉田社長が親切に尋ねた。
「ええ、片付きました。ご心配いただき、ありがとうございます」
藤堂澄人は礼儀正しく、しかし距離を置いて頷いた。「プロジェクトの件については、いつでもご担当の方を弊社までお送りください。本日は吉田社長のお時間をこれ以上頂戴しないようにいたします」
藤堂澄人は丁寧に言ったが、吉田社長もビジネスの世界の人間だ。藤堂澄人が帰るように促していることが分からないはずがない。藤堂澄人を食事に誘う考えを改め、「では、私はこれで失礼いたします。藤堂社長にはもう少しこちらにお留まりいただき、私どもの歓待をお受けいただければと存じます」と言った。
「恐縮です」
吉田社長を見送った後、藤堂澄人の表情は再び冷たくなり、測り難いものとなった。
「社長?」
「ショッピングモールの監視カメラの映像を全て取り寄せろ」
そう言い終わると、冷たい表情のまま立ち去った。九条結衣を探しに行く急ぎもなかった。
あの子供のことで、九条結衣は確実に何かを隠している。今は彼女を追い詰めたくなかった。
先ほどの九条結衣の様子は、明らかに何かを隠していて、それを知られることを恐れていた。だから、しばらくは彼女の望み通りにしておこう。
藤堂澄人が宿泊しているホテルに戻ってまもなく、監視カメラの映像の確認を命じられた松本裕司がすぐに戻ってきた。
「社長、確認してまいりましたが、ショッピングモールの監視システムに問題が発生しており、この数日はメンテナンス中で、本日は監視カメラが作動していなかったそうです」
松本裕司がもたらした情報に、藤堂澄人の眉が急に寄せられ、薄い唇を固く結んだ。
「一台も作動していないのか?」
藤堂澄人は諦めきれずに尋ねた。
「はい、モール内の全ての監視カメラが停止していました」
松本裕司は藤堂澄人を一瞥した。社長が突然監視カメラの映像を要求したということは、必ず何か重要な事があったに違いない。
おそらく奥様に関係することかもしれない。