108.痛みで胸が張る

「結衣、こっちに来て。話があるの」

電話の向こうで酔った声を聞いた九条結衣は眉をひそめ、尋ねた。「どこにいるの?」

「スターナイト」

九条結衣がスターナイトバーに着いた時、遠くから夏川雫がカウンターに座って、グラスの中の強い酒を一口一口飲んでいるのが見えた。

近づくと、彼女の体からするアルコールと香水の混ざった匂いに、思わず眉をひそめた。

「どうしてこんなに飲むの?」

「結衣、来てくれたんだ?」

夏川雫は酔った目で結衣を見つめ、グラスに酒を注いだ。「ほら、一緒に飲もう」

結衣はグラスを受け取ったものの、飲まずに横に置き、明らかに酔っ払っている親友を見つめた。

二人はアメリカで学生時代に知り合った。一人は法律を、もう一人は医学を学んでいたが、同じ中国人というだけで、異国で同郷人に出会ったような親近感が自然と生まれた。

性格も合い、何でも話せる親友となった。

結衣の知る夏川雫は、いつも明るい人だった。どんな困難に直面しても眉一つ動かさず、いつも笑って過ごしていた。

こんなに酔っ払うのを見るのは初めてで、表情には苦痛と悲しみが満ちていた。

「結衣、言っとくけど...男なんて...男なんてクソだわ。口では一生愛すって言いながら、心の底から腐ってる。気付かないうちに傷つけられるのよ、分かる?」

結衣は一瞬固まり、アルコールで曇った雫の目を見つめながら、苦笑いを浮かべた。

どうして分からないことがあろう?

藤堂澄人との三年間の結婚生活で、すでに身に染みて分かっていた。

「奴らは感情を弄び、そして容赦なく見捨てる。予期せぬ残酷さで...」

夏川雫が話し続ける間、結衣は黙って聞いていた。唇を軽く噛み、心に苦みが広がるのを感じた。

無意識に横に置いてあったグラスを手に取り、一気に飲み干した。心の苦みを少しでも流し去ろうとするかのように。

「ひどいわ、本当にひどい。結衣、教えて...あの人たちの心は、一体どうなってるの?どうしてこんなに冷酷に、さっさと見切りをつけられるの?」

夏川雫は茫然と結衣を見つめ、目には理解できない思いと悔しさが満ちていた。「あの時、愛してるって言ったのに、どうしてこんな嘘をつけるの...」

結衣は雫が誰のことを言っているのか分からなかったが、共感するかのように、また酒を一気に飲み干した。