「もうダメ、彼を一目見ただけで妊娠しそう」
「……」
藤堂澄人は周りの騒がしい議論を無視して、真っ直ぐに九条結衣の方へ歩いていった。
この忌々しい女め、さっき彼の車がここに停まっているのを見たはずなのに、そのまま通り過ぎやがった。
皆は目を見開いて、藤堂澄人が九条結衣の後ろをゆっくりと歩き、長い腕を彼女の前に差し出すのを見ていた。
藤堂澄人を見上げた彼女は眉をひそめ、彼が人々の想像を掻き立てるような言葉を口にする前に、先に言った。「藤堂社長、前にも申し上げた通り、弊社は藤堂グループとの提携は考えておりません。宮崎社長からもお伝えしたはずです。無理強いはなさらないでください」
九条結衣のこの発言を聞いて、藤堂澄人と九条結衣に何か特別な関係があるのではないかと思っていた見物人たちは納得した。
なんだ、藤堂社長は彼らの会社と提携したいだけだったのか。くそ!こんな良い機会なのに、九条社長はなぜ断るんだ!!!
藤堂澄人は九条結衣の言葉を聞き、周りの好奇の目を感じ取り、すぐに彼女の言葉の意図を理解した。
彼との関係を否定するために、九条結衣は本当に必死だな。
心の中で冷笑し、声を落として合わせるように言った。「物事をそう決めつけないでください。藤堂グループとの提携は、九条社長にとってメリットしかないはずです。まずは私の提携プランをお聞きになってから、お断りになるかどうかご検討されては如何でしょうか?」
彼の声は低く心地よく、一言発するだけで、その場にいる全員の心を溶かした。
穏やかな表情を見せているものの、その眼差しは鋭く、もし彼女が今断ろうものなら、きっと彼女を永遠に平穏にさせない言葉を吐くに違いなかった。
藤堂澄人を睨みつけながら、深く息を吸って言った。「藤堂社長がそこまで誠意を見せてくださるなら、お話だけは伺わせていただきます」
藤堂澄人は満足げに微笑み、九条結衣に「どうぞ」と手で示した。九条結衣は彼を見ることなく、振り返ってベントレーに向かい、ドアを開けて乗り込んだ。
藤堂澄人も後部座席に乗り込み、「発車」と命じた。
そのベントレーが誠和ビルを離れるまで、ビルの外にいた誠和の社員たちは名残惜しそうに見送っていた。
満足げな表情の者もいれば、未練がましい表情の者もいた。
「話してください。私に何を言いに来たのか」