149.前に出て平手打ちを食らわせる

初は、先ほどの九条結衣が藤堂澄人を平手打ちにしたことに驚いて呆然としていた。しばらくして、やっと口を開いた。「ママ、あのおじさんが私を連れ去ったんじゃないの。私が自分で空港に会いに行ったの」

彼は、ママが怒っているのは、きっとおじさんを誘拐犯だと思っているからだろうと考えた。

九条結衣は冷たい目で藤堂澄人を見つめた。彼の深く黒い瞳と目が合うと、何も言わずに視線を戻し、初に言った。「まず家に帰って話をしましょう」

「ママ、おじさんも一緒に家に帰ってもいい?」

「いい…」

「構いません」

九条結衣の言葉が途切れたところで、藤堂澄人の低い声が割り込んできた。彼は母子の方へ歩み寄り、先ほどの平手打ちなど受けていなかったかのように、まったく気にしている様子もなく、九条結衣を一瞥してから初に言った。「おじさんも初と一緒に帰るよ」