「知っているどころか、とても親しいんだ!」
藤堂澄人は歯を食いしばって低い声で言った。九条初が怯えた様子を思い出すと胸が痛くなり、抱きしめている柔らかな子供の体に手を上げて叩こうとしたが、できなかった。
子供が彼に会いたがっていたのだから、どうして責められようか。それに、三歳の子供に、そこまでの考えがあるはずもない。
「初、ママが心配して怖がることを知らないの?もし悪い人に連れて行かれたらどうするの?ママが悲しむのが怖くないの?」
藤堂澄人は我慢強く初に語りかけた。
「わかってるよ。でも、遅くなったら、おじさんが飛行機で行っちゃって、見つけられなくなるのが怖かったの。」
初は無邪気な瞳をパチパチさせながら、手首につけている子供用の腕時計を見せて言った。「おじさん見て、これは安西臣おじさんが作ってくれた特別な時計なの。中にプログラムが入ってて、誰かに連れて行かれたら、このボタンを押すと、時計が警察に通報して、警察のおじさんが私を見つけてくれるの。」
藤堂澄人は言葉を失った。
この子がそんなに平気でいられたのは、これが理由だったのか?
幸いにもこのC市は治安が良かったが、もし用心深い誘拐犯に遭遇していたら、この腕時計など何の役にも立たなかっただろう。
九条結衣が警察から連絡を受けた時、子供が空港にいるという知らせに、まだ頭が混乱していた。なぜ子供が一人で空港に行ったのか理解できなかった。
しかしその時は、考える余裕もなく、急いで空港へ向かった。
「お子様はVIPラウンジにいらっしゃいます。こちらへどうぞ。」
空港のスタッフが九条結衣とこの件を担当する警察の責任者二人をVIPラウンジへと案内した。
ドアを開けると、初が一人の男性の前に立っているのが見えた。男性は彼女に背を向けて初の前に半身をかがめ、何かを話しているところだった。
その後ろ姿、その声、九条結衣にはあまりにも見覚えがあった。すでに良くなかった表情が、一気に底まで暗くなった。
後ろから聞こえる足音に、藤堂澄人が振り返ると、九条結衣の真っ青な顔と、わずかに震える唇が目に入り、眉をひそめた。「子供は...」
「パン!」
一発の平手打ちが藤堂澄人の頬に鋭く入り、その音の大きさに周りの人々が息を呑んだ。
「藤堂澄人、あなたは度が過ぎます!」