「もう遅いから、帰った方がいいわ」
藤堂澄人がリビングに戻ってきたところで、九条結衣の追い払う言葉が聞こえた。
藤堂澄人は冷たい目で彼女を一瞥し、ソファーの前まで歩いて腰を下ろした。長い脚を投げ出し、ソファーに寄りかかると、何となく色気のある雰囲気を醸し出していた。
座ったまま九条結衣を見上げる姿勢でも、その威圧感は彼女を圧倒していた。
「急ぐことはない。近くに住んでいるから」
九条結衣が住んでいる小林翔の家はビジネス街にあり、近くには高級ホテルがいくつかあったので、彼女は深く考えず、彼が近くのホテルに泊まっているのだろうと思った。
「でも私、もう寝たいんです、藤堂さん」
こんなにはっきりとした追い払いの言葉なのに、分からないのだろうか?
九条結衣は淡々とした目で藤堂澄人を見つめ、この男の厚かましさがますます増していくのを感じた。