156.雨に濡れる

駐車場は建物の入り口からそう遠くなかったが、九条結衣は傘を差しながら、九条初が雨に濡れないように、傘の大半を隣の人に向けていた。

冷たい雨が、傘の外に出ている彼女の腕に降り注ぎ、その冷気が毛穴に染み込んで、思わず身震いをした。

建物に入ると、藤堂澄人は九条結衣の体の半分以上が濡れていることに気付き、眉をひそかに寄せた。

エレベーターがゆっくりと下りてくる中、二人はエレベーターホールに立っていた。この時間帯は人通りが少なく、この静寂に九条結衣は少し居心地の悪さを感じていた。

「ディーン——」

エレベーターがちょうど良いタイミングで開き、九条結衣は藤堂澄人の後に続いて中に入った。エレベーターは最上階まで直行した。

小林翔のこのマンションは、このマンション群の最上階にある二階建ての部屋で、眺めが良く、屋上には小さな庭園もあり、とても快適な住まいだった。