134.社長が奥さんを追いかけに行った

彼は社長がこんな表情を見せるのは初めてで、あまりにも……怖かった。

あっという間に数ヶ月が過ぎ、年末が近づいてきた。各企業が最も忙しい時期だった。

藤堂グループの朝会で、各部門の責任者たちは早くから会議室に集まり、各部門の業務状況を報告していた。

「長陵重工業との共同プロジェクトは既に始動していましたが、長陵重工業が他の企業に買収され、経営陣が全て入れ替わり、プロジェクトも中止されました。プロジェクトを再開するには、我々の方から長陵重工業に人を派遣して、新しい経営陣と交渉する必要があります。」

工事部の責任者は話を終えると、出席している各部門の責任者たちを見渡し、最後に藤堂澄人に視線を向けた。

このような案件は大したことではなく、特に藤堂グループの各部門にはエリートが揃っているため、簡単に対処できる。工事部も会議で報告するだけの形式的なものだった。

藤堂澄人が誰かを派遣すると一言言えば済む話だったが、主席の席に座る端正な顔立ちの冷たい男は、物思いに耽りながら指で机を叩いていた。しばらくして顔を上げ、「長陵重工業はC市にあるのか?」と尋ねた。

工事部の責任者は藤堂澄人がなぜこの些細な案件に関心を持つのか不思議に思いながらも、頷いて「はい、社長」と答えた。

「ああ、私が長陵の人間と交渉する」

そう言い残すと、彼は席を立ち、周囲の驚いた視線の中で「解散」と言って出て行った。

各部門の人々は藤堂澄人のこの決定に驚き、疑問を感じていた。会議が終わった後、ある人が外に向かう松本裕司を引き止め、小声で尋ねた。「松本秘書、こんな小さな案件に社長が直接関わるなんて、この長陵重工業に何か問題でもあるんですか?」

質問したのは、長陵重工業との協力プロジェクトを締結した市場部長で、協力協定は彼が署名したものだった。もしその中に問題があれば、今年は厳しい年になりそうだった。

これを聞いた松本裕司は目を伏せ、顎に手を当てて少し考え込んだ後、何かを悟ったような、深い意味ありげな表情を浮かべた——

「なぜかは大体分かりました。ご心配なく、プロジェクトには何の問題もありません」

社長がC市に行くのは、ある人がC市にいるからに他ならない。

この数ヶ月我慢してきたけど、社長がずっと我慢できると思っていたのに。

しかし、松本裕司は自分のボスの心中を公にはしなかった。