藤堂澄人は車を路肩に停め、九条結衣の方を振り向いて、真剣な表情で言った。「結衣、私が炎上を収めたのは、余計な人々があなたたち親子の生活に影響を与えるのを避けたかったからだ。九条初が私の息子ではないと他人に伝えたかったわけではない」
彼の瞳が沈んだ。「初は私、藤堂澄人の息子だ。それは永遠に変わることはない。言っただろう。離婚の考えを捨てて私と一緒に帰るか、それとも初の親権を巡って争うことになるかだ」
九条結衣は再び怒りを含んだ笑みを浮かべた。藤堂澄人はいつもこうだ。傲慢で人を見下し、世の中の人々は全て自分の思い通りに動くべきだと思っている。
「藤堂澄人、一体私にどうしろというの?」
「今言ったことがまだ足りないのか?」
藤堂澄人は眉をひそめ、深い眼差しで彼女を見つめた。
九条結衣は冷たく彼を見つめ続けてから言った。「藤堂澄人、離婚はする。子供も私が引き取る。争うというなら、どうぞ」
そう言って車のドアを開け、怒りに任せて降りた。数歩歩いたところで、ハイヒールが小石を踏んでしまい、足を捻ってしまった。瞬時に顔が青ざめるほどの痛みが走った。
藤堂澄人も九条結衣の言葉に腹を立てており、そのまま車で立ち去ろうと思ったが、バックミラーで欄干につかまりながら足を引きずって歩く彼女の姿を見てしまった。
藤堂澄人の瞳が急に暗くなり、車のドアを開けて大股で彼女の方へ向かった。
九条結衣は、藤堂澄人は生まれついて自分を苦しめる存在なのだと思った。彼と一緒にいる時は良いことなど一度もなかった。
今も彼の車に乗っただけで、歩くだけで足を捻ってしまう始末だ。
今は足が痛いだけでなく、怒りで肝まで痛くなってきた。
「藤堂澄人のこの野郎!!」
彼女は歯を食いしばりながらも、思わず罵声を上げてしまった。額には痛みで冷や汗が滲み始めていた。
路肩でタクシーを拾って帰ろうと思ったが、足首から伝わる激痛に眉間の皺が深くなるばかりだった。
次の瞬間、足が軽くなり、後ろから誰かに抱き上げられた。反射的に抵抗しようとしたが、不満げな色を帯びた深い瞳が彼女の顔に向けられているのを見た。
彼だと分かり、九条結衣の目の中の怒りは収まるどころか、さらに強まった。今自分が藤堂澄人に抱かれて路上に立っているという状況も忘れていた。
「藤堂澄人……」