九条結衣の怯えた表情を見て、藤堂澄人は苦笑いを浮かべながら「出て行きなさい」と言った。
小林由香里は九条結衣の表情を注意深く観察したが、怒りの色は見られず、彼女の本心を読み取ることができなかった。
でも、藤堂澄人は……
あんなにハンサムで裕福なプラチナ独身貴族、チャンスがあれば誰が諦められるだろうか。
九条結衣は目を閉じて浴槽に寄りかかった。今日は九条初がトレンド入りした件で一日中頭が痛く、やっとお風呂に入って少し楽になった気がした。
浴槽のお湯は心地よい温度で、つい眠くなってしまいそうだった。
藤堂澄人は九条結衣が上階でお風呂に入ってからずいぶん経つのに出てこないのを見て、眉をひそめた。
小林という家政婦が自分と九条初の傍に立ち続け、時々存在感をアピールするのを見て、すぐに眉をひそめた。
「初、少し一人で見ていなさい。ママの様子を見てくる」
そう言って、階段を上がっていった。
「藤堂さん」
家政婦は彼と話すチャンスを掴み、急いで追いかけた。「奥様はお風呂に入っていらっしゃいます。あの…このまま行かれるのは…」
藤堂澄人の視線が沈み、小林由香里を見る目つきが鋭くなった。「俺の妻を見に行くのに、何か問題でもあるのか?」
小林由香里は藤堂澄人の言葉に詰まり、顔を真っ赤にした。「もう30分も経っているのに、ここで突っ立って何もしないつもりか?皮が剥けるまで放っておくつもりか?」
藤堂澄人は近寄りがたい人物ではあったが、見知らぬ人を必要以上に困らせることはしない。しかし、この言葉は明らかに小林由香里を驚かせ、主人に対する責任感の欠如を指摘するものだった。
彼女は奥様がお風呂に入っている間に、藤堂社長と親しくなるチャンスを掴もうとしただけなのに、どうしてこんなに空気が読めないのだろう。
小林由香里は悔しさで目に涙を浮かべ、すぐにポロポロと涙を流し始めた。
藤堂澄人は些細なことですぐ泣く女性が大嫌いで、イライラした様子で眉をひそめながら、二階の浴室へ向かった。
浴室のドアは施錠されておらず、藤堂澄人は考えることなく、そのまま中に入った。
九条結衣が浴槽に寄りかかっているのが見えた。怪我した足を濡らさないように浴槽の縁に載せ、目を閉じて横たわっている姿は、とても魅惑的だった。
藤堂澄人はその光景に足がもつれそうになり、転びそうになった。