「パパ!」
明らかに、九条初は藤堂澄人を見て嬉しそうで、二階から飛び跳ねて降りてきて、一気に藤堂澄人の体に飛びついた。
藤堂澄人は息子が自分を見てこんなに喜んでいるのを見て、心が温かくなり、息子を抱きしめながら、小さなお尻を持ち上げて、「重くなったな」と言った。
「おばさんが毎日美味しいご飯作ってくれるの」
初は藤堂澄人の首に抱きついたまま、甘えた声で答えた。
初が藤堂澄人に自分のことを褒めているのを聞いて、小林由香里は顔を輝かせたが、藤堂澄人を見ると、彼は相変わらず自分を見ようともせず、ただ息子を抱きながら笑顔で話し、九条結衣の隣に座った。
小林由香里の笑顔は口元で凍りついて、しばらく声も出ず、何を考えているのかわからなかった。
「小林さん、立っていないで、座って食事をしなさい」
九条結衣の家には、彼女と初母子の他には小林由香里しかいないので、普段の食事の時は、九条結衣はいつも小林由香里も一緒に食べさせていた。
小林由香里は我に返り、おずおずと藤堂澄人の向かいの席に座り、視線は思わず藤堂澄人の方へ向いてしまう。
しかし藤堂澄人は息子との会話に夢中で、時々九条結衣の皿に料理を取り分けるばかりで、彼女の方は全く見向きもしなかった。
九条結衣は藤堂澄人がなぜこんなに気が利くようになったのか、食卓で自分に料理を取り分けたりするのか分からなかったが、自分の息子を見て、きっと息子の前でいい父親を演じようとしているのだろうと推測した。
彼女は冷笑し、それを指摘することもせず、無料の使用人が世話をしてくれるなら、それに越したことはないと思った。
料理を取ろうと目を上げた時、視線が偶然藤堂澄人の向かいにいる小林由香里に向いた。彼女は一口一口上品に食事をしていた。普段から彼女の食事は静かで育ちの良さが窺えたが、今の動作は特に意識的で、優雅な姿を見せようと努力しているかのようだった。
九条結衣は小林由香里の心中を察することができ、心の中でため息をつき、首を振った。やはり社会に出たばかりの若い娘で、一目見ただけで藤堂澄人に魅了されてしまったのだ。
しかし、藤堂澄人のような男に関わってしまえば、いつの日か骨まで食い尽くされても気づかないだろうということを、彼女は知らないのだ。