154.おじさんに彼女がいる

彼は九条結衣の目を一秒でも見つめる勇気がなかった。彼女の目に映る深い憎しみを見るのが怖かったのだ。まるで逃げるように九条結衣の家から出て行った。

藤堂澄人が去った後、九条結衣は全身の力が抜けたように、ソファーに崩れ落ちた。

「親権を求める?随分と遠回しな言い方ね」

九条結衣は皮肉っぽく笑った。

藤堂澄人のあの態度は、明らかに奪い取ろうとしているのに、どこが求めることなのか。

両頬を強く擦って、感情を落ち着かせようとした。もう何年も藤堂澄人のことでこんなに感情的になることはなかったのに。

しばらくソファーに座っていたが、立ち上がって二階へ向かった。

その時、家政婦はすでに九条初のお風呂を済ませ、着替えも終わっていた。九条結衣が部屋に入った時、家政婦は化粧台から立ち上がるところだった。