九条結衣は根掘り葉掘り聞く性格ではないので、小林由香里に何か良いことがあったのかは聞かなかった。彼女の言葉を聞いて、ただ頷いて黙っていた。
小林由香里もほっとして、藤堂澄人に簡単に電話番号を渡してしまったことを思い出し、期待に胸を膨らませた。
彼女は藤堂澄人が必ず連絡してくると信じていた。男性の興味を引く方法を心得ていたからだ。藤堂澄人からメッセージが来さえすれば、彼が彼女との会話を求めずにはいられなくなるように仕向けることができる。そうすれば、時間とともに藤堂奥様の座は自分のものになるのではないだろうか?
今になって、以前自分を追いかけてきた金持ちの二世たちを断ってよかったと思う。彼らがどんなに金持ちでも、藤堂澄人には及ばないのだから。
でも...九条結衣と藤堂澄人は一体どういう関係なのだろう?
九条初は二人が入籍した夫婦だと言っていたが、なぜニュースには藤堂澄人の結婚についての報道が一切ないのだろう?
それとも、藤堂社長は二人の夫婦関係を認めていないのだろうか?
これまでの二人のやり取りを見ていると、藤堂澄人と九条結衣の関係は良好とは言えないようだった。
九条結衣自身も藤堂澄人のことが好きではないと認めているではないか?
小林由香里は心の中で考えを巡らせ、次第に興奮してきた。そして九条結衣のことを高慢で愚かだと思った。藤堂澄人のような極上の男性を嫌うなんて、幸せの中にいることに気づかないなんて。
その後数日間、藤堂澄人は現れず、九条結衣は自宅で怪我の療養をしていた。九条初も九条結衣の前で藤堂澄人の話を一切しなかったため、九条結衣もひとまず安心していた。
一方、小林由香里は藤堂澄人からの電話もメッセージも一切なく、当初の自信も次第に薄れていった。
「藤堂社長が忙しすぎるのかしら?」
小林由香里は心の中でそう自分を慰めた。だって数千億ドル規模の財閥のトップなのだから、普段は忙しいに違いない。藤堂社長に時間ができたら、きっと連絡してくれるはず。
彼女に興味がなくても、九条初のことは気にかけているはずでしょう?
そう考えると、小林由香里の心は再び落ち着いた。
一方、九条結衣は足の怪我はまだ完治していないものの、ゆっくりと歩けるようになっていた。
ちょうど手元の仕事を片付けたところで、A市からの電話を受けた。