209.袖をまくって実行する

「結衣、大丈夫?」

夏川雫は酔いでしゃっくりをしながら、向かい側でまだ意識がはっきりしているように見える九条結衣に尋ねた。

「大丈夫よ」

九条結衣の声は淡々としていたが、かなりお酒を飲んでいたため、少しかすれていた。

夏川雫は上着の襟をきつく締めながら、九条結衣に言った。「寒いわ、帰りましょう」

「うん」

九条結衣は子供のように素直に頷いた。

会計を済ませた後、二人は代行運転を呼び、車が途中まで走ったとき、「バン」という音が鳴り、運転手を含む車内の三人は大きな衝撃を受けた。

右前のタイヤが何か鋭いものに刺さったらしく、パンクして、車は制御を失い、路側帯のガードレールに衝突した。

後部座席に座っていた二人は、シートベルトをしていなかったため、頭が窓に強く打ち付けられた。夏川雫は運が良く、座っていた場所の横に大きな柔らかいクッションがあり、それが衝撃を和らげてくれた。しかし九条結衣は不運で、額がガラスに当たり、大きな切り傷ができ、傷口から一瞬で血が流れ出した。

代行運転手は若い女の子で、この状況に怯えて、泣きながら謝っていた。

夏川雫は酔いが回っていたが、九条結衣の額から血が流れているのを見て叫んだ。「結衣、血が出てる!!」

この時、誰かが既に警察に通報しており、代行運転手の女の子も落ち着きを取り戻し、急いで九条結衣を車から降ろし、救援を待った。

九条結衣は非常に静かに頭を押さえながら傍らに立ち、終始無言で、ぼんやりとした目で次々と集まってくる野次馬たちを見つめ、少し眉をひそめて嫌そうな様子を見せた。

「なんで私たちを見てるの?」

夏川雫は首を傾げ、ふらつきながら立って、「わからない。私たちが特別きれいだから?」

傍らで救援を待っている代行運転手の女の子は「……」

この二人は本当に酔っ払っていた。二人が正常な状態でないことは分かっていたが、彼女は親切に二人の質問に答えた。「お客様の車がパンクしたので、救援を待っているんです」

その言葉が終わるや否や、それまで静かに立っていた九条結衣が突然目を輝かせ、「心配いらないわ、タイヤ交換できるから」

そう言いながら、上着を脱ぎ、袖をまくり上げ、車のトランクを開け、手慣れた様子で中から予備タイヤを取り出した。

野次馬たち「……」