210.隠しきれない喜び

真っ赤なセダンの横で、九条結衣は袖をまくり上げてしゃがみ込んでタイヤを交換していた。誰が引っ張り上げようとしても、彼女は押しのけてしまう。

彼女の額には血が流れており、その様子は見るに堪えないものだった。

夏川雫は、隣にいる若い女性にふらふらと寄りかかりながら、眉をひそめて、タイヤを交換している九条結衣を見つめていた。

藤堂澄人は九条結衣のその姿に驚き、群衆の中を足早に歩み寄った。「結衣!」

彼は歯を食いしばって叫び、すでに身を屈めて九条結衣をタイヤの横から引き上げていた。

九条結衣の手には、血とタイヤの泥が混ざり合い、汚く不気味な様相を呈していた。

藤堂澄人を見て、九条結衣は一瞬茫然としたが、すぐに顔の表情が明るくなった。「澄人?!」

その美しい瞳には、隠しきれない喜びの色が浮かんでいた。

藤堂澄人は、彼女のその突然の呼び方に一瞬戸惑った。九条結衣がこのように彼を呼んだのは、もうどれくらい経っただろうか。

最後に彼女がこう呼んだのは、もう四年前のことだった。

藤堂澄人の心の奥が、かすかに震えた。何かに強く心を掻き乱されたかのように、全く落ち着きを取り戻せなかった。

彼が呆然としている間に、九条結衣は汚れた手で彼の真っ白なワイシャツの袖をしっかりと掴んでいた。「澄人、タイヤがパンクしちゃったの。交換を手伝って」

九条結衣のこの普段とは違う親しみやすさに、藤堂澄人は戸惑いを感じたが、すぐに彼女から漂う強い酒の匂いに気付き、すべてを理解した。

この女は酔っ払っていた。それもかなり酷く。

彼は即座に九条結衣を抱き上げた。「怪我をしている。まず病院に行こう」

九条結衣はまだ気が進まない様子で何か言おうとしたが、藤堂澄人が眉をひそめて「言うことを聞け」と言うのを見て、

口まで出かかった言葉を飲み込んだ。彼女は目を大きく開いて、無邪気で哀れっぽい目で藤堂澄人を見つめた。まるで無害な子鹿のように。その姿に藤堂澄人の心は思わず柔らかくなった。

藤堂澄人の帰りを待っていた田中行は、彼が血まみれの九条結衣を抱えているのを見て、大きく驚いた。シートベルトを外して車から降りようとした時、藤堂澄人が「夏川雫があっちにいる。見てきてくれ」と言った。

その言葉を聞いた田中行は、もはや藤堂澄人に状況を尋ねる余裕もなく、長い足で群衆の方へ走っていった。