211.胸が痛くてたまらない

額の傷は深く、血が彼女の顔の半分を染め、見るものの心を痛ませた。

彼女の顔色は青ざめ、痛みで眉をしかめていた。藤堂澄人が身を屈めて彼女を抱き上げると、九条結衣の痛みによる低い呻き声が時折耳に届いた。

「結衣！！」

当直中の渡辺拓馬は、九条結衣の顔が血で半分真っ赤に染まっているのを見て、心臓が激しく震え、足早に駆け寄った。

「藤堂澄人、結衣に何をしたんだ？！」

彼は顔を青くし、無表情の藤堂澄人を睨みつけながら、低い声で詰問した。

藤堂澄人は渡辺拓馬のことが気に入らず、相手にする気も全くなかったが、九条結衣の額の傷を見て、我慢して落ち着いた声で答えた：

「交通事故に遭って、頭を怪我した。診察してやってくれ。」

渡辺拓馬も藤堂澄人を見るたびに全身が棘だらけになるような思いだったが、今は手を抜くわけにはいかず、藤堂澄人を外科へ案内した。

九条結衣の傷を慎重に診察し、細心の注意を払って縫合して包帯を巻いた後、藤堂澄人に言った：「頭部CTを撮って、他に問題がないか確認しましょう。」

藤堂澄人は頷き、九条結衣を抱き上げようとしたが、渡辺拓馬に止められた。

藤堂澄人はずっと渡辺拓馬のことが気に入らなかったので、止められて表情が不機嫌に曇った。「何だ？」

渡辺拓馬は彼の目に宿る怒りを完全に無視し、同じように顔を引き締めて言った。「額をこんなに怪我してるんだ。脳震盪を起こしているかもしれないのに、そんな風に抱き上げたりして、症状を悪化させたいのか？」

藤堂澄人はそれを聞いて、険しい表情が一瞬凍りついた。差し出していた手は引っ込めたものの、九条結衣の顔から視線を一瞬たりとも離さなかった。

渡辺拓馬は冷ややかな目で彼を一瞥し、この男のどこが気に入らないかと考えた。結衣がなぜこんな男を好きになったのか理解できなかった。

心の中ではそう思っていても、表面には出さなかった。今、九条結衣は深く眠っていたので、渡辺拓馬も起こそうとはせず、看護師に車椅子でCT室まで連れて行かせた。

藤堂澄人はずっと入口で待機し、心の中は落ち着かなかった。頭から血を流して地面に蹲っていた九条結衣の無力な姿と、彼を見た時の目に浮かんだ突然の喜びの表情が、頭から離れなかった。