207.靖子は本当に優しすぎる

この母娘は目先のことしか見えず、九条政が九条グループを手にしているのを見て、彼が九条家の天下を握っていると思い込んでいた。しかし、九条家が今日の地位を得られたのは、九条グループのおかげではなく、軍部で名を馳せた九条信という首長のおかげだった。彼は今は退任しているものの、政界と軍界で依然として十分な影響力を持っていた。

母娘が九条結衣を辱めることを夢見ているところに、木村靖子の電話が鳴った。

木村靖子は携帯を取り出して画面を見ると、顔に少し苛立ちの色が浮かんだ。

「誰からなの?」

木村富子は靖子の不機嫌な表情を見て、尋ねた。

「藤堂瞳っていうバカよ」

木村靖子は淡く笑い、目には露骨な軽蔑の色を浮かべながらも、この藤堂家のお嬢様に対する嫉妬を否定できなかった。

「藤堂瞳は藤堂澄人の妹よ。藤堂家に入りたいなら、彼女を軽々しく敵に回してはいけないわ。藤堂奥様になるまでは、この御令嬢様を大切にしないとね」

木村靖子は苛立たしげに聞きながら、「分かってるわ、ママ。電話に出るから」と言った。

彼女は携帯を持ってベランダに行き、電話に出る時には既に優しい表情に変わっていた。「瞳、私に何か用?」

「靖子、どこにいたの?こんなに電話に出るのが遅いなんて」

電話の向こうから藤堂瞳の不満げな声が聞こえてきたが、その中に興奮が混ざっているのは明らかだった。

「さっきスマホをマナーモードにしてたから気づかなかったの。どうしたの?声が嬉しそうだけど、何か良いことあった?」

「もちろん嬉しいわよ」

藤堂瞳の興奮した声が電話越しに続いた。「知ってる?お兄ちゃんがついに九条結衣と離婚したの。ハハハ、靖子、頑張ってね。私、あなたが義姉さんになるの楽しみにしてるわ!」

藤堂瞳からのニュースに、木村靖子の目が輝き、心臓の鼓動も早くなった。「澄人さんが九条結衣と離婚したって?」

「そうよ、今日の午後、裁判所が息子の親権もお兄ちゃんに与えたの。九条結衣は何も得られなかったわ。嬉しいでしょう?」

「お姉さんが離婚することになって、残念ね」

木村靖子は心の中の興奮と喜びを抑えながら、唇を噛み、惜しむような口調で言った。