184.彼女は本当にそんなに私のことが好きなの?

藤堂澄人は彼のことを知っていた。九条結衣の従弟で、九条家の四男の息子である九条凌だ。結衣より六歳年下で、大学二年生だった。

九条家では、九条爺さん以外、誰も結衣と藤堂澄人の名ばかりの結婚のことを知らなかった。特に早くからアメリカに定住していた九条士郎一家は知る由もなく、だからこそ九条凌はそんな質問をしたのだ。

九条凌が結衣の話を持ち出すと、藤堂澄人の瞳が暗くなり、淡々と「知らない」と答えた。

そう言いながらも、思わず九条家の門の外に目を向け、気づかれないように眉をひそめた。

九条凌の笑顔が凍りついた。藤堂澄人の暗い表情を見て、何かを悟ったようで、声を落として言った。「姉さんと喧嘩したの?」

藤堂澄人の体が一瞬こわばり、目を伏せたまま何も言わなかった。

「姉さんってそういう気の強い性格だから、義兄さんは大目に見てやってください。夫婦なんだから、喧嘩したって仲直りするでしょう。姉さんが来たら、僕から話してあげますよ。」

九条凌は胸を叩きながら、その後、意味ありげな表情で冗談めかして言った。「知らないでしょう?姉さんが結婚する前、毎日あなたの話ばかりしてたんですよ。僕なんか耳タコができるくらい聞かされました。姉さんの様子といったら、今すぐにでもあなたの元に飛んでいきたいって感じでした。普段は気が強いけど、そんなにあなたのことが好きなんだから、大目に見てやってください。」

藤堂澄人は静かに九条凌の話を聞いていた。彼とは何度か会ったことはあったが、親しいわけではなかった。そして九条凌が話したこれらのことは、初めて聞く話だった。

なぜか、九条凌の話を聞き終わった時、ここ数日の憂鬱な気分が急に和らいで、口角が上がるのを抑えきれなかった。

「本当にそんなに僕のことが好きだったのか?」

九条凌は意味ありげな表情で彼を見つめ、「好きかどうか自分で分からないの?まさか姉さん、結婚してから奥手になったとか?」

藤堂澄人の表情が複雑になった。自分にはわかるのだろうか?

時として、彼自身にも分からないことがあった。

静かに門の外に視線を向け、薄い唇を一文字に結んだ。