眉をしかめ、彼は九条結衣の視線を避け、別の方向を見つめた。手のひらから情けないことに冷や汗が滲み出ていた。
九条結衣は冷ややかな目で彼を一瞥し、顔に嘲笑の色を浮かべた。
何を説明する必要がある?
彼女が勘違いして、彼がここに立っているのは彼女に付き添うためだと思うとでも?
脳震盪はしているけど、頭がおかしくなったわけじゃない。
藤堂澄人は彼女が知的障害者を見るような嫌悪の眼差しを向けてくるのを見て、不機嫌そうに眉をひそめ、我慢しようとしたが、結局「その目は何だ?」と口を開いてしまった。
九条結衣は彼を相手にする気も失せ、視線を外してエレベーターの方へ歩き出した。
その様子を見た藤堂澄人は、他のことも構っていられず、足早に彼女を追いかけ、エレベーターのボタンを押す前に彼女の行く手を遮った。「こんな状態で、どこに行くつもりだ?」
九条結衣は「余計なお世話」という目つきを彼に向け、冷たく言い放った。「あなたに関係ないでしょう?」
「九条結衣、お前は……」
九条結衣は彼と口論するつもりはなく、視線を外してまたエレベーターのボタンを押そうとしたが、手を伸ばした瞬間、藤堂澄人にがっちりと掴まれ、動けなくなった。
「藤堂澄人……」
「九条結衣、俺は深夜にここに残って付き添ってやってるんだ。お前の体を痛めつけるのを見るためじゃない。」
九条結衣が自分の体のことを全く気にかけない強情な態度を見せるものだから、顔を真っ黒にして、歯を食いしばるような口調で言った。
九条結衣はまだ少しめまいがしていたが、夏川雫の状態が心配で、ここで藤堂澄人と言い争うつもりはなかった。彼の言葉を聞いて、冷笑を一つ漏らした。
「さっきは私に付き添うためじゃないって言ったじゃない?」
藤堂澄人は彼女の言葉に一瞬言葉を詰まらせ、再び顔に後ろめたさを浮かべたが、九条結衣の手を掴む力は少しも緩めなかった。
「俺様が何をするのに、お前に説明する必要なんてないだろう?」
言い終わると、彼は九条結衣の意思など気にせず、そのままエレベーター前から抱き上げ、病室へと戻っていった。
「藤堂澄人、私を下ろして!」
九条結衣の顔も黒くなり、藤堂澄人にこうして抱かれていることに感情が高ぶり、もがき始めた。
もがいた途端、さらにめまいがひどくなり、顔色も一層悪くなった。