214.ここに銀300両なし

九条結衣は藤堂澄人とあまり話したくなかった。数時間前に彼が息子を強引に連れ去ったことを思い出すと、彼が自ら病院に連れて来てくれたとしても、感謝の気持ちにはなれなかった。

「もしかして藤堂社長は、私に『ここに残って付き添ってください』と言ってほしいんですか?」

九条結衣の目には皮肉の色が浮かんでいた。彼女がそう言い放つと、藤堂澄人は一瞬どう答えていいか分からなくなった。

心の中の声が彼に告げていた。確かに彼女の側に残りたいと思っている。でも、何の資格があるというのか?

彼女の元夫だからという理由で、彼女の面倒を見る責任と義務があるというのか?

そして彼女の今の態度からすると、彼が残ることを望んでいないのは明らかだった。

突然、藤堂澄人は「元夫」という言葉が嫌になった。この言葉のせいで、多くの場面で彼は受け身になってしまうのだから。