188.母から受け継いだ輝かしい伝統

爺さんがそう言った時、さりげなく、この件に関わりたくなかった藤堂澄人に視線を向けた。

爺さんの視線を受け取った藤堂澄人は、すぐに爺さんの意図を理解し、さりげなく眉をひそめた。

九条結衣の方を見やると、彼女はただワイングラスを持って傍らに立ち、他人事のように赤ワインを味わっていた。まるで今起きていることが自分とは全く関係ないかのように。

木村靖子は九条爺さんのこの攻撃的な言葉に窮して、顔色が一層青ざめた。

周りの視線を見ると、ただの見物以外に、母娘に同情する者は一人もいなかった。

木村靖子の心は沈み、涙をこらえながら九条爺さんを見つめて言った。「お、お爺様、私のことを認めなくても構いませんが、どうしてこのように私を辱めるのですか？」

「ふん！私が辱めただと？自分がしでかした恥ずべき行為を、わざわざ私が公にする必要があるのか？」

他の人は藤堂澄人とこの私生児との関係を知らないが、自分は分かっているのだ。

あの数年間、必死に結衣を探していた彼の姿を見ていなければ、とっくにあの小僧に目にものを見せていただろう。よくも自分の結衣にあんな大きな苦労をさせたものだ。

爺さんの先ほどの一瞥を、木村靖子はもちろん見逃さなかった。爺さんは彼女と澄人に関係があると確信していた。もしこの場でそれを持ち出せば、他の人々も澄人の面子を考えて、この老いぼれに自分を辱めさせ続けるのを見過ごすことはないだろう。

ひょっとすると、澄人のために自分に取り入ろうとさえするかもしれない。

そう考えると、木村靖子はむしろ落ち着きを取り戻し、背筋を伸ばした。彼女の態度には、むしろ正当性を主張するような雰囲気さえあった。「お爺様、私のことがお嫌いなのは分かっています。でも、このような汚名を着せるのは、私の名誉を傷つけます。そんな…そんなことは…」

木村靖子がそう言い終えると、九条結衣の視線が彼女に向けられた。木村靖子が突然このように正当性を主張し始めたことで、彼女は木村靖子の意図を一瞬で理解した。

このような方法で爺さんを罠にはめようというのか？

爺さんがどんな人か分かっているのだろうか？

九条結衣は唇の端を上げ、グラスの赤ワインを一口飲んだ。透明なグラスの縁が、彼女の口元の嘲笑を隠していた。

「お前の母親譲りの立派な伝統を、わざわざここで私が広めてやる必要があるのか？」