浴室で手早く身支度を整えた後、彼女は渡辺拓馬に退院手続きをしてもらおうと思っていたところ、ドアが外から押し開けられた。
顔を上げると、藤堂澄人が昨日使用人が特別に病院に届けてくれた服を着たままだった。明らかに、彼は帰らずにここで一晩過ごしたようだ。
さりげなくベッドの横に置かれた、彼女の身長でさえ窮屈な折りたたみ椅子に目を向けると、複雑な思いが心に染み込んでいった。
あの大柄な体がこの簡易ベッドで一晩を過ごしたとは想像し難い。
藤堂澄人は一体何のためにこんなことを?
しかし藤堂澄人は九条結衣の目の中の複雑さに気付かず、彼女が目覚めているのを見て近寄ってきた。「こんなに早く起きたの?もう少し休んだら?」
意図的なのか柔らかな声音に、九条結衣は思わず眉をひそめ、近づいてくる彼の気配に落ち着かない様子を見せた。