その言葉は藤堂澄人の耳には非常に不快に響いた。彼女が渡辺のことを心配そうに話す口調に、胸が苦しくなった。
彼は夜勤で疲れ果て、彼女のために一晩中見守っていたのに、なぜ彼の疲れを気にかけてくれないのだろう?
藤堂澄人は無言で表情を冷たくし、周囲の空気は一段と冷え込んだ。
渡辺拓馬は九条結衣が自分を追い払おうとしているのを感じ取り、少し失望したが、彼女を困らせるつもりもなかった。
藤堂澄人というやつは、まさに「官僚は火を放っても良いが、庶民は灯りもつけてはならない」という身勝手な男だ。自分は他の女性と浮気しても良いくせに、結衣が他の男性と付き合うことは許さない。一体どこからそんな優越感が来るのか。
「分かった、じゃあ先に帰るよ。何かあったら電話してくれ。」
「私がここにいるから、結衣に何かあっても私が対処します。渡辺先生はお早めにお休みください。」
藤堂澄人は冷たい表情で割り込んできた。今は渡辺拓馬にすぐにでも消えてほしかった。
渡辺拓馬は彼を横目で見て、冷ややかに鼻を鳴らし、九条結衣に別れを告げて去っていった。
病室には再び九条結衣と藤堂澄人の二人だけが残された。よく眠れなかったせいで、藤堂澄人の目は充血していた。今になって九条結衣はそれに気づき、彼があのリクライニングチェアで一晩中自分を見守っていたことを思い出し、複雑な気持ちになった。
一方、夏川雫の方では。
昨日、九条結衣が藤堂澄人に連れて行かれた後、夏川雫も田中行に事故現場から連れて行かれ、目が覚めた時には田中行の部屋のベッドで横になっていた。
田中行と4年間付き合っていた彼女にとって、この場所は全く見慣れないものではなかった。今この部屋を見て、自分がどこにいるのか分かった。
「ついてないわ!」
嫌そうな顔で呟きながら、ベッドから降りて浴室で顔を洗い、出てきた時に、自分の体には大きな男物のワイシャツしか着ていないことに気づいた。丁度お尻が隠れる程度の長さだった。
その下は、すらりとした素足の脚が露わになっていて、自分で見ても色っぽくて鼻血が出そうだった。
誰が服を着替えさせたのかを考えると、夏川雫の表情はさらに暗くなった。
この時、田中行は部屋にはいなかった。夏川雫は怒りながらベッドサイドに歩み寄り、ベッドサイドテーブルに置いてある携帯電話を取って、田中行に電話をかけた。