220.奥様の会社に異変が

藤堂澄人の視線が携帯に向けられた。松本裕司からの着信だった。

重要な用件がない限り、松本裕司がこんな時間に電話をかけてくることはなかった。

携帯を手に病室を出ると、彼は通話ボタンを押した。「話せ」

目覚めたばかりの声は、少し色気のある掠れ声で、低く魅惑的だった。

電話の向こうの松本裕司は、彼が電話に出たのを確認すると、一刻の猶予もなく慌ただしく切り出した。「社長、奥様の会社で問題が起きました」

離婚はしたものの、松本裕司の言う奥様とは、九条結衣以外にありえなかった。

藤堂澄人は九条結衣の会社で問題が起きたと聞くや否や、瞳の色が一段と暗くなった。「詳しく話せ」

言い終わるや否や、彼の携帯には松本裕司から送られてきた複数のニュースリンクが表示された。

リンクを開いて大まかに目を通すと、藤堂澄人の表情は先ほどよりさらに暗くなり、深い瞳の奥に人を威圧するような光が宿った。

松本裕司との通話を切った後、彼は携帯を取り出し、別の番号に電話をかけた。電話はすぐに繋がり、相手の声は少し焦っているように聞こえた。「今、忙しいんだ」

藤堂澄人は相手の態度を無視し、恐ろしいほど低い声で言った。「誠和の件はどうなっている?九条結衣を助けろと言ったのに、これがお前の助け方か?」

電話の向こうの相手は、藤堂澄人のこの詰問するような口調に一瞬戸惑った様子で、その後怒鳴り声が聞こえてきた。「ちょっと待て、今重要な用事がある」

言い終わると、藤堂澄人が口を開く前に、相手は電話を切ってしまった。

藤堂澄人は携帯を握りしめ、無言で表情を曇らせた。ニュースで報じられた事件を思い出し、九条結衣は今回厄介な問題に巻き込まれたようだった。

鋭い眼差しで目を細め、病室の方を一瞥してから、再び松本裕司に電話をかけた。

「社長」

「誠和に関連するニュースを一旦抑えろ」

現時点では状況がはっきりしていない。すべてはあの人物に会ってからだ。

今回の件は、単なる二社間の悪意ある競争なのか、それとも誰かが意図的に九条結衣を狙っているのか?

後者の可能性を考えると、藤堂澄人の険しい目には、一瞬で殺気が宿った。

藤堂澄人が出て行って間もなく、九条結衣は目を覚ました。鼻先に漂う薄い消毒薬の匂いで、自分が今どこにいるのか思い出した。