藤堂澄人の視線が携帯に向けられた。松本裕司からの着信だった。
重要な用件がない限り、松本裕司がこんな時間に電話をかけてくることはなかった。
携帯を手に病室を出ると、彼は通話ボタンを押した。「話せ」
目覚めたばかりの声は、少し色気のある掠れ声で、低く魅惑的だった。
電話の向こうの松本裕司は、彼が電話に出たのを確認すると、一刻の猶予もなく慌ただしく切り出した。「社長、奥様の会社で問題が起きました」
離婚はしたものの、松本裕司の言う奥様とは、九条結衣以外にありえなかった。
藤堂澄人は九条結衣の会社で問題が起きたと聞くや否や、瞳の色が一段と暗くなった。「詳しく話せ」
言い終わるや否や、彼の携帯には松本裕司から送られてきた複数のニュースリンクが表示された。
リンクを開いて大まかに目を通すと、藤堂澄人の表情は先ほどよりさらに暗くなり、深い瞳の奥に人を威圧するような光が宿った。