「ママ」
九条初は自分のママを見るなり、すぐさま父親のことを忘れ、藤堂澄人の体から必死に降りようとし、小さな体をくねらせながら九条結衣の方へ走っていった。
九条結衣は九条初を抱き上げ、少し渋い笑みを浮かべながら「この数日、おばあちゃんの家でいい子にしてた?」と尋ねた。
「うん、でもママに会いたかった」
九条初はぷっくりとした小さな手で九条結衣の顔を包み込むように触れ、「ママ、次は私から離れないで。初、ママと離れたくないの」と言った。
そう言いながら、柔らかな小さな唇で九条結衣の唇にキスをした。
その甘えた声は、九条結衣の心の最も痛いところを突いた。子供が藤堂澄人に連れて行かれることを考えると、初のこの質問に答えることができなかった。
「私は...」
九条結衣の言葉が口まで出かかったとき、さっきまで自分に甘えていた息子の頭が、突然現れた誰かに押しのけられた。