「そうだね」
栗原亜木は肩をすくめ、少し気のない様子で答えた。まるで他人事のような態度だった。
「今回のトラブルはお前が引き起こしたんだ。自分で解決しろ。さもないと、ただじゃ済まないぞ」
これには栗原亜木も逆上した。
「何が私が引き起こしたって?私がパソコンのデータを盗まれるように仕向けたわけじゃないでしょう。九条結衣が人を見る目がないだけで、雇った何とかいうチームは、チームワークもクソもない...」
栗原亜木はさらに文句を言おうとしたが、藤堂澄人の警告的な眼差しを受け、賢明にも口を閉ざした。
「それにしても、兄さん、本当に九条結衣を追いかけたいの?こんなに熱心な兄さんを見たことないよ。朝早くからわざわざA市からここまで来て、この件について私に聞くなんて」
栗原亜木は好奇心いっぱいの表情で、期待を込めて藤堂澄人を見つめた。異性に縁のない彼から、世間を驚かせるようなゴシップを引き出そうとしていた。
しかし藤堂澄人はカップの最後のコーヒーを飲み干して言った。「彼女は私の元妻だ」
「元...元...元妻!!!」
栗原亜木は藤堂澄人が突然投げた爆弾に完全に茫然自失となり、藤堂澄人が個室を出た後、慌てて後を追った。
「いつ結婚したの?なんで私に知らせなかったの?あれ、待てよ、元妻?彼女に振られたの?」
藤堂澄人が九条結衣に振られたと考えると、栗原亜木の心の中の小人が抑えきれずに腰に手を当てて天を仰いで大笑いし始めた。
因果応報だ。この大悪魔が女性に振られるなんて。
爆竹を鳴らして祝いたくなるのは何でだろう?
栗原亜木の心は今、草原を駆け回る暴れ馬のように喜びに満ちていたが、藤堂澄人の殺気立った眼差しを受けると、強い生存本能が働き、即座に態度を変えて言った。
「ひどすぎますよ。兄さんはこんなに素晴らしい人なのに、どうして彼女は振ったんですか?兄さんは優しすぎます。元夫なのに、彼女を殺そうとも思わないなんて」
栗原亜木が耳元でうるさく喋り続けるのを、藤堂澄人は今回一瞥もくれずに立ち去った。
近くで、信号待ちをしている一台の乗用車の中から、誰かが窓越しに、驚きと疑問の眼差しでカフェの入り口にいる藤堂澄人たちを見つめていた。
「栗原部長がなぜ藤堂社長と一緒にいるんだろう?」
しかも、二人の様子を見ると、かなり親しそうだった。