「私が最初にお前を九条結衣の会社に入れたのは、こんなくだらない話を聞くためじゃない」
藤堂澄人の声は冷ややかで、栗原亜木を見つめる眼差しは、開かれた刃物のように鋭く、その視線が向けられた場所は皮膚が裂けるほどだった。
「私だって最初は行きたくなかったんですよ」
あなたに強要されなければ。
栗原亜木は、藤堂澄人の険しい目を受けて、後半の言葉を飲み込んだ。
「でも、話は変わりますが、兄貴、あなたと九条社長はどういう関係なんですか?こんなに親身になるなんて知りませんでしたよ」
彼は両手で顎を支え、向かいの男を見つめた。愛らしい顔立ちのせいで、女性たちから母性本能を引き出しやすかったが、向かいに座る「父親」からは慈愛の心など微塵も引き出せなかった。
「兄貴の周りには女性がいないし、もしかして九条社長に惚れたんじゃないですか?実際、九条社長は本当に綺麗だし、頭も良くて有能だし、兄貴の好みですよね」