「体が臭すぎて、我慢できないわ」
九条結衣の顔が再び曇った。「人の言葉が分からないの?我慢できないなら出て行けばいいでしょう。なぜここにいつまでもいるの?」
藤堂澄人は今回本当に彼女を からかうつもりはなかった。もともと軽い脳震盪があり、さっき吐いたばかりで、体力も弱っていた。
彼女を一人でここに置いておくのは、本当に心配だった。
しかし明らかに、このまま居続けようとすれば、九条結衣は決して彼の思い通りにはさせず、ずっと対立し続けるだろう。
「分かった、出ていく。でも早く済ませてくれ。十分経っても出てこなかったら、入るぞ」
九条結衣は藤堂澄人がこんなにも簡単に妥協するとは思わなかったが、体のべたつく感覚を思い出し、彼と言い争うこともなく、しかめ面で頷いた。
藤堂澄人はすぐに向きを変えて外に出て、ついでにドアも閉めてあげた。
九条結衣はまだ少しめまいがしていたが、先ほどよりはましになっていた。汚れた服を脱ぎ、シャワールームで大まかに体を流し、体の汚れがすべて取れてから出てきた。
藤堂澄人が本当に十分後に入ってくるのではと心配で、無意識のうちに動作が早くなっていた。
藤堂澄人はずっと浴室のドアの前から離れることなく、注意を浴室の中に集中させ、中から断続的に聞こえる足音で九条結衣の無事を確認しながら、何とか心を落ち着かせて待っていた。
九条結衣が着替えを済ませてドアを開けて出てきた時、藤堂澄人が本当にドアの前に立っているのを見て、思わず眉をひそめた。
特に、彼が病院の患者服を着て自分の前に立っているのを見ると、どう見ても違和感があった。
しかし、それでも認めざるを得なかったのは、この男には病院の患者服さえも高級ブランドの特注品のように着こなす才能があることだった。
「あなた…」
九条結衣が口を開こうとした時、ドアをノックする音で遮られた。
こんな真夜中に、当直の看護師以外に誰が来るというのだろう?
九条結衣が不思議に思っている間に、藤堂澄人はすでにドアを開けていた。
「若様、お洋服をお持ちしました」
藤堂家の使用人で、服の入った袋を手に持ってドアの前に立っていた。
「ありがとう」
藤堂澄人は使用人から袋を受け取り、使用人も長居せず、病室の中に立っている九条結衣を見て、頭を下げて挨拶をした。「奥様、どうかお大事に」