249.お茶に誘う

九条結衣は彼の方を見上げると、彼が九条初の前で足を組んで座り、一緒にブロック遊びをしている姿が目に入った。彼は振り返らなかった。

彼女はその場に数秒立ち尽くした後、身を翻して立ち去った。

なぜか、さっきの藤堂澄人の表情が気になって、まるで自分が何か悪いことをしてしまったような気分になった。

九条結衣が出て行き、ドアを閉めると、藤堂澄人はようやく後ろを振り返った。その目には僅かな苦みと寂しさが宿っていた。

栄光グループ——

「社長」

総務部長補佐が慌てて社長室のドアを開けて入ってきたが、目の前の艶めかしい光景に顔を真っ赤にした。

「お前、死にたいのか?こんな時に入ってきやがって」

ソファーの上で、肥満体の中年男性が妖艶な女性を押し倒し、必死に彼女の服を引き裂こうとしていた。

補佐に邪魔されて、すぐさま怒りを爆発させ、テーブルの上の灰皿を補佐の頭めがけて投げつけた。

補佐は青ざめた顔で本能的に横に避け、急いで説明した:

「申し訳ございません、社長。わざと邪魔するつもりではありませんでした。本当に緊急の報告がございまして」

補佐に邪魔されたことで、大野社長と呼ばれる男は続ける気も失せ、手を振って女性を下がらせた後、補佐の方を向いて不機嫌そうに言った:

「何だ、さっさと言え!」

このような下品な態度では、とても一企業の社長とは結びつかない。

補佐は姿勢を正して言った:「藤堂グループの藤堂社長がお茶のお誘いを」

「ほう」

大野社長は頷いたが、次の瞬間、急に目を見開いて補佐を見た。「待て、誰だって?」

目には信じられない様子が浮かび、幻聴かと思うほどだった。

「藤堂グループの藤堂澄人社長が、お茶にお誘いしたいとのことです」

社長が信じられないのは当然で、補佐自身も信じられなかった。

栄光グループは確かにグループと呼ばれてはいるが、藤堂グループと比べれば、ゴミクズ以下だ。

藤堂澄人のような階層の社交界に入り込もうとしても、それは夢物語に過ぎない。

もっと率直に言えば、藤堂澄人が太上老君なら、彼ら大野社長は丹炉の灰にも及ばず、藤堂澄人は一顧だにしないだろう。

しかし今回、藤堂澄人が自ら大野社長とお茶を飲もうと誘ってきたのだ。大野社長がこんな表情を見せるのも無理はない。

補佐自身、この知らせを受けた時、詐欺師かと思ったくらいだ。