また彼にお茶を注いだ。極めて穏やかな動作なのに、御手洗賢には殺気が迫ってくるように感じられた。
「大野社長、緊張しないでください。お呼びしたのは、ゆっくりお話をしたいだけです。まずはお茶でも飲んで落ち着きましょう」
御手洗賢は茶碗を持ち、思わず手に力が入った。
なぜかわからないが、藤堂澄人が「ゆっくり話そう」と言うのを聞くと、良い話にはならないと感じた。
「藤堂社長は、どのようなお話をされたいのでしょうか?」
御手洗賢は藤堂澄人を見つめ、抵抗する気力すら失せていた。
藤堂澄人は微笑んで、「私の奥様は常に善良で、弱い立場の人に優しく、外で虐められても私に告げ口することもありません。ですから、大野社長、ご安心ください。私の要求もそれほど無理なものではありません」
藤堂澄人がにこやかにそう言っているのを聞いても、御手洗賢は全く安心できなかった。
「藤堂社長、どうぞおっしゃってください。どんなご要求でも必ず従います」
御手洗賢は唾を飲み込みながら、震える声で言った。
「私も残酷な人間ではありませんから、むやみに貴社を破産させるようなことはしません。大野社長が苦労して築き上げた事業ですからね」
「は...はい、ありがとうございます」
「しかし、私の奥様は最近この件で食事も睡眠も取れず、やつれてしまいました。見ていて私も心が痛みます。ですから、精神的損害賠償や栄養費などは、大野社長にお支払いいただくべきでしょう?」
藤堂澄人の要求がそれだけと聞いて、大野社長の心配は半分ほど解消された。「もちろんです、もちろん」
藤堂澄人は手元から別の紙を取り出し、御手洗賢に渡して言った。「これが私が大野社長に提示する金額です。ご覧ください」
御手洗賢は手を伸ばして受け取り、最下部の金額を見た瞬間、顔色が変わった。
「五...五億?」
御手洗賢は信じられない様子で、無関心そうな表情を浮かべる藤堂澄人を見上げた。「藤...藤堂社長、これは...」
これはあまりにも法外な要求ではないか?
彼の会社の総価値でさえ十数億程度なのに、一言で五億も要求してきた!
「大野社長もそれほど多くないとお考えですよね?私は法外な要求はしないと申し上げました」