252.破産か賠償か

彼は分かっていた。その五億は藤堂澄人にとって本当に大したことではなく、彼のような小企業は、澄人が指一本動かすだけで本当に破産させられるのだと。

破産か五億の賠償か、どちらを選ぶべきか、御手洗賢には分かりすぎるほど分かっていた。しかし、分かっているとはいえ、それは彼の資産の三分の一だ。このように差し出すなんて、どうしても納得がいかなかった。

藤堂澄人の方から軽い笑いが聞こえてきた。彼が目を上げて藤堂澄人を見ると、この男は傲慢な狼王のようで、彼の前に平伏する以外に選択肢はなかった。

「大野社長、私は二つの選択肢を提示したのに、道理が通らないと?」

藤堂澄人は御手洗賢とこれ以上話を続ける気が無いようで、席から立ち上がって言った:

「大野社長には一日の考える時間を差し上げましょう。破産か賠償か、お好きな方を選んでください。それと、私の奥様は私が彼女の事に口を出すのを最も嫌がります。だから、今日私があなたに会いに来たことを、彼女が一言でも知ることになれば、本当に道理など通らなくなりますよ。」

言い終わると、茶室を出て行き、御手洗賢は顔面蒼白で中に崩れるように座り込んだまま、顔には後悔の色が浮かんでは消えた。

一体どんな悪運に取り憑かれて、このような大物に睨まれることになったのか。

あの...誠和の社長が、藤堂澄人の奥様だったなんて、なぜ誰も教えてくれなかったんだ!!

九条結衣の方も素早く動いていた。宮崎裕司が目の前の調査結果を彼女の前に置いた時、九条結衣の表情は複雑だった。

「九条社長、どうされましたか?」

宮崎裕司は九条結衣がその調査結果を見て黙り込んでいるのを見て、心配そうに尋ねた。

九条結衣は我に返り、首を振って言った:「何でもないわ。」

宮崎裕司は彼女の表情が普段通りなのを見て、それ以上は聞かず、ただ言った:「この研究員は先月来たばかりで、最近ギャンブルで数百万円負けて、栄光の人間に付け込まれて、栗原部長のパソコンの資料を盗んで栄光側に渡したんです。」

ここまで話して、宮崎裕司は何かを思い出したように、申し訳なさそうな表情を浮かべた。「昨日は栗原部長の仕業だと思い込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした。」