253.兄貴は情商が低い

九条結衣は御手洗賢と何度か接触したことがあり、その男から受けた印象は良くなかった。好色で、貪欲で、少し卑猥な感じがして、今回の特許盗用事件も、おそらく彼の指示によるものだろう。

今、彼女は十分な証拠を持っているとはいえ、実際には栄光にこれほどの賠償金を支払わせることはできないはずだった。

しかし、目の前で行われている記者会見は紛れもない現実で、これには九条結衣も御手洗賢を少し見直さざるを得なかった。

なぜかわからないが、九条結衣はこの事態の展開があまりにもスムーズすぎると感じていた。

さらに九条結衣が予想もしなかったことに、栄光側の対応は驚くほど早く、記者会見の後すぐに財務部門は栄光から5億円の資金を受け取った。これには九条結衣も長い間驚きを隠せずにいた。

退社時、九条結衣が会社のビルを出たところで、あのチュニ病少年...いや、チュニ病青年の栗原亜木と出くわした。

「やあ、お義姉さん」

栗原亜木の呼びかけに、九条結衣は思わず足を止めた。昨夜、藤堂澄人から栗原亜木が彼の従弟だと聞いたことを思い出し、彼女の表情には微妙な色が浮かんだ。

「お義姉さん、会社の件は大丈夫になりましたか?」

栗原亜木は九条結衣の前に立ち、顔を下げて尋ねた。その輝く八重歯が特に目立っていた。

「ええ、すべて解決しました」

栗原亜木が意味ありげに笑うのを見て、「兄貴の動きは早かったですね」と言った。

九条結衣は一瞬驚いた表情を見せた。「え?あなたの兄さん?」

九条結衣のこの反応を見て、栗原亜木は彼のツンデレな従兄が良いことをしたのに九条結衣に話していないことを悟った。

まあいい、彼が言わないなら自分が代わりに言おう。だって自分はそういう正義の味方なんだから。

彼は腕を組んで九条結衣の前に立ち、少し奇妙な笑みを浮かべた。「お義姉さん、まさか御手洗賢のような豚野郎が、誰かに圧力をかけられもしないのに、素直に謝罪して賠償金を払うと思ってたんですか?」

九条結衣は栗原亜木の言葉に一瞬呆然とした。5億円という法外な賠償金のことを思い出し、御手洗賢の異常な態度を考えると、今になってすべてが分かった気がした。

「全部あなたの兄さんがしたの?」

「そうでなきゃ何だと思います?」