明らかに彼が手伝うかと聞いてきたのに、今度は「俺様に頼め」という態度は何なのだろう?
九条結衣はもう、あの頃のように全てのプライドを捨てて藤堂澄人に頼むつもりはなかった。ましてや、今の彼女と藤堂澄人はどんな関係なのだろうか?
完全に決裂はしていないものの、息子の親権を巡って二人の関係は既に険悪になっていた。それなのに、彼は彼女に助けを求めさせようとしているのか?
よくもそんな図々しい!
九条結衣は心の中で藤堂澄人を軽蔑し、その軽蔑の表情を惜しみなく顔に表した。それを見た藤堂澄人は、また五臓六腑が痛むほど腹が立った。
彼女が助けを求めるのはそんなに難しいことなのか?
彼女が頼みさえすれば、彼が助けないはずがないのに。なんてこう頑固なんだ!
歯を食いしばって九条結衣を睨みつけ続けたが、彼女は先ほどの軽蔑の一瞥以外、彼を一度も見ようとしなかった。藤堂澄人は再び肝臓が衰弱するほどの怒りを感じた。
「社長、奥様、空港に着きました」
九条結衣は松本秘書の呼び方を完全に無視することにした。どうせこの松本秘書は、故意なのか記憶力が悪いのか、何度訂正しても相変わらずそう呼び続けるのだから。
「ありがとう」
シートベルトを外して車を降りると、彼女は礼儀正しく藤堂澄人にお礼を言った。「藤堂社長、送っていただきありがとうございます。今度機会がありましたら、お食事でもご馳走させていただきます」
言い終わると、藤堂澄人に余計な視線も送らず、彼女は素早く空港の中へと歩いていった。
最も早いC市行きの便を予約した。
搭乗手続きを済ませ、時間がまだ早かったので、九条結衣は空港のVIPラウンジで30分ほど待ってから搭乗準備を始めた。
ファーストクラスだったので、それほど長く並ぶことはなく、機内に入ると席に座って離陸を待った。
頭をヘッドレストに預け、目を閉じて会社で起きたこの一件について考え、事の全容を把握しようとした。
10分も経たないうちに、隣の席に誰かが座るのを感じたが、気にも留めなかった。そして客室乗務員の優しい声が、彼女の横の通路で聞こえてきた。
「お客様、何かお飲み物はいかがでしょうか?」
「コーヒーを、ありがとう」
聞き覚えのある声に、九条結衣は瞬時に目を見開いた。振り向くと、藤堂澄人が彼女を見つめており、その唇は意味ありげに微笑んでいた。