257.空港での偶然の出会い

他のことはさておき、藤堂澄人が結婚式に来てくれさえすれば、彼女が間に入って動けば、世間に彼女と藤堂澄人の関係が並々ならぬものだと思わせることができるはずだった。

藤堂澄人とのつながりだけでも、周りの人々の注目を集めることができ、これからの彼女のキャリアも順調に進むはずだった。

九条グループは有名な大企業で、多くのトップスターが九条グループの商品の広告塔を務めてきた。今回の九条会長の結婚式には、彼女の知る限り、多くの一流セレブリティが出席する予定だった。

彼女は海外で演技を学び、もともと芸能界に進出するつもりだった。今まで待っていたのは、九条家のお嬢様という身分で芸能界デビューすれば、業界の人々も軽視できず、良い仕事も自然と舞い込んでくるはずだと考えていたからだ。

すべてを完璧に計算していたのに、藤堂澄人の拒否によって、彼女の完璧な計画は完全に崩れてしまった。

藤堂澄人とのつながりがなくなれば、話題性も大幅に減ってしまう。九条グループのバックアップがあっても、やはり藤堂グループという後ろ盾があるのとは比べものにならない。

木村靖子は考えれば考えるほど納得がいかなかった。ここまで一歩一歩積み上げてきて、どれほどの努力を重ねてきたのに、得られるのはこれだけなのか?

人の欲望は一度大きくなると、多くのものが物足りなく感じてしまうものだ。

木村靖子は藤堂澄人に無視されることに納得できなかった。もう九条家のお嬢様になるというのに、藤堂澄人はまだそれを理解していないのか、まだ九条結衣が彼女の力になると思っているのか?

木村靖子は心の中で恨めしく思いながら、藤堂瞳から藤堂澄人のスケジュールを聞き出し、また密かに計画を立て始めた。

九条結衣の飛行機がA市に着陸したばかりの時、空港を出ようとしたところで、同じく出張から戻ってきた藤堂澄人と松本裕司に出くわした。

藤堂澄人も一瞬驚いた。空港で九条結衣に会うとは思っていなかった。

「奥様」

九条結衣を見た松本裕司は、非常に忠実に挨拶をした。この「奥様」という呼び方は特に自然で、傍らの藤堂澄人にも心地よく響いた。

給料上げてやろう。

藤堂澄人は心の中でそう思いながら、静かに九条結衣を見つめていた。