263.不具になったら可哀想

案の定、九条結衣は無邪気な様子で言った。「私が木村さんの指を折ったのを誰が見たんですか？山本叔父さんですか？」

彼女は山本叔父さんの方を向いて尋ねた。

山本叔父さんは考えもせずに首を振った。「木村さん、あなたが介入したせいで、奥様は旦那様と離婚することになったんです。それなのにまだこんな卑劣な方法で我が家のお嬢様を陥れようとするなんて、よくもそんな恥知らずなことができますね！」

「あ、あなた...」

木村富子は九条結衣と山本叔父さんのこの厚かましい嘘つきぶりに呆然とした。「九条結衣、恥を知りなさい！私を傷つけておいて、認めようともしないなんて！！」

九条結衣は平然と笑みを浮かべ、木村富子に一歩近づいた。母娘は本能的に後ずさり、警戒と恐怖の眼差しで九条結衣を見つめた。

「木村さん、さっきはあなたが自分で転んで指を折ったのに、どうして私のせいにするんですか？私の両親が離婚して、後ろ盾がなくなったから、私を いじめようとしているんですか？」

「あなた...」

恥知らず！！恥知らず！

「九条結衣、認めないからって私たちが何もできないと思ってるの？」

木村靖子は口ではそう言ったものの、心の中では何かを悟っていた。

九条結衣がこれほど余裕なのは、証拠が何もないことを知っているからだ。

母娘二人の証言だけでは、警察に通報しても、彼女たちの一方的な言い分だけでは取り合ってもらえないだろう。

でも、このまま引き下がるのは悔しすぎる！

なぜ！

なぜこんな時でも九条結衣に勝てないの？母が傷つけられても、何もできないなんて！

「早く指を治療に行った方がいいわよ。治療の適切な時期を逃したら、不具になったら大変でしょう」

九条結衣は顎を少し上げ、意地悪な継母のような態度を完璧に演じきった。

そう言って、山本叔父さんの方を向いて言った。「山本叔父さん、私は病院に行って、おじいさまの様子を見てきます」

「はい、私もこちらで旦那様の荷物を用意して、病院に向かいます」

二人は木村母娘には一瞥もくれず、まっすぐ前を向いて立ち去った。

先ほどの騒動を目撃しながらも、何も見なかったふりをして俯いていた使用人たちは、木村富子が九条結衣にやり込められた様子を見て、内心快感を覚えた。

彼らも当然、この母娘のために証言などするつもりはなかった。