260.極悪なるボス様

木村靖子は藤堂澄人の目に浮かぶ軽蔑と侮蔑の表情に呆然としていた。彼の言葉の意味を理解する前に、藤堂澄人は続けて言った:

「君は妹に取り入るのが好きなようだけど、私がどんな人間か聞いていないのかな。私は目が肥えていて、何でも良いというわけじゃない」

木村靖子は、藤堂澄人のその侮辱に近い言葉に、後ろに数歩よろめいた。目は先ほどよりも更に赤くなっていた。「澄人さん...どうしてそんなことを...」

「それとも、私が何でも食べる人間だと言って欲しいのかい?」

藤堂澄人の傍らで静かに立っていた松本裕司は、心の中でこっそり親指を立てた:さすがボス、戦闘力は自分より上だ。

藤堂澄人は既に木村靖子に十分な言葉を費やしており、もう我慢の限界に達していた。

この女は九条結衣の前で自分を利用して策を弄しているつもりか、バレないと思っているのか?

無意識に後ろを振り返ると、九条結衣は既にその場にいなかった。瞳が鋭く光り、空港の出口を見やると、ちょうど九条結衣が荷物を持ってタクシーに乗り込み、振り返ることもなく去っていくところだった。

藤堂澄人の表情が暗くなり、鋭い視線を弱々しい演技をする木村靖子に向けた。木村靖子は思わず体を震わせ、今回の軽率な行動を後悔し始めた。

藤堂澄人の眼差しは不気味で、木村靖子は目を合わせる勇気がなかった。体の横で手を握りしめ、多くのことが自分の想像とは違っていたことに気付いた。

「す...澄人さん...」

藤堂澄人は彼女を無視し、肝が冷える視線を残して空港を出た。

松本裕司は直ぐに後を追い、木村靖子に同情の眼差しを向けた。

社長は何も言わなかったが、長年社長に仕えてきた経験から、木村さんはもう終わりだろう。

藤堂グループの運転手は既に空港の外で待機していた。藤堂澄人は車に乗り込み、冷たい声で言った:「九条政に少し教訓を与えてやれ」

松本裕司は車に乗るなり、藤堂澄人の言葉を聞き、すぐにボスの意図を理解した。

やっぱり、木村靖子があんな馬鹿なことをしてボスの機嫌を損ねたら、こんな悪魔のような人が黙っているはずがない。

九条政に問題を起こせば、結婚式はスムーズに進まないだろう、へへ~~~

九条結衣は車に乗り、九条家の住所を告げると、後部座席に寄りかかって黙り込んだ。