「藤堂グループ全体が私のものですって?藤堂社長は私が全部持ち去ってしまうのを恐れないんですか?」
彼女は眉を上げて問い返した。
「君にその力があるなら、好きなところへ持って行けばいい」
藤堂澄人はそう笑いながら言ったが、その目には真剣さが宿っていた。残念ながら、九条結衣は先入観から藤堂澄人の言葉を冗談だと思い込み、まったく気にも留めなかった。
彼女は微笑んで言った。「藤堂グループ全体は、確かに魅力的ですけど、私は欲が小さくて、能力も大したことないので、藤堂グループほどの大きなケーキは飲み込めません。ご好意は感謝します」
彼女は笑顔で断った。
藤堂澄人は心が沈んだ。拒否されることは分かっていたが、やはり少し失望を感じずにはいられなかった。
「九条グループの筆頭株主として、九条グループの利益のことを考えてみる気はないのか?」
彼は諦めきれずに尋ねたが、九条結衣は肩をすくめて言った。「もうすぐ株主でなくなりますから、九条グループの利益は私には関係ありません」
そう言いながら、彼女の目に冷たい光が走り、目の奥の暗さを押し隠した。藤堂澄人と自分の考えを議論することはなかったが、藤堂澄人は九条結衣のその言葉に驚き、目に冷たさが浮かんだ。「九条政が君の株式を奪おうとしているのか?」
九条政は元義父であり、九条結衣の父親だが、九条結衣が彼を認めようとしない以上、彼も相手に敬意を払う必要はないと考えていた。
「あの人が?」
九条結衣は笑いながら、手元の赤ワインを一口すすって言った。「そんな力はありませんよ」
そう言って少し間を置き、藤堂澄人が話す前に続けた。「こんな気が滅入る話はやめましょう。早く食事にしましょう」
彼女は九条グループに対する計画について、藤堂澄人に話すつもりはなかった。
藤堂澄人も彼女の口調に含まれる軽い拒絶を感じ取り、それ以上は聞かなかった。
しかし、もし九条政が彼女に何か企んでいるなら、容赦はしないつもりだった。
藤堂澄人の妻は、たとえ元妻であっても、いじめるのは自分だけの特権だ。他人にその権利はない!
「そうだな、彼らの話はやめよう。息子の話をしようか」
突然藤堂澄人が息子の話を持ち出したので、九条結衣は喉に詰まった料理を飲み込みかけて、むせそうになった。