「単なる呼び方の問題なのに、結衣はなぜ変えたくないの?」
藤堂澄人は先ほどの「九条社長」を「結衣」に変えた。
九条結衣は彼の質問に言葉を失い、沈黙するしかなかった。
確かに呼び方は大した問題ではないが...今さら昔のように何の躊躇もなく「澄人」と呼ぶことは、どうしてもできなかった。
藤堂澄人は彼女の沈黙を見て、それ以上追及することはしなかった。
彼にとって、九条結衣の今の態度は、自発的なものであれ息子のためであれ、少なくとも以前よりもずっと穏やかになっていた。
食事が終わると、藤堂澄人は九条結衣をホテルまで送ると申し出た。九条結衣は今回は断らず、むしろ非常に快く承諾した。
車がホテルの地下駐車場に入り、二人が続けて車から降りた。藤堂澄人がすぐに帰る様子を見せないのを見て、九条結衣は目立たないように眉をひそめた。
「藤堂...」
バン——
九条結衣の言葉は、激しいドアの閉まる音で遮られた。
二人は同時に眉をひそめ、音のする方向を見た。彼らから近くない場所に停まっている商用車から、十数人の男たちが降りてきた。それぞれが鉄パイプを手に持ち、凶悪な目つきで彼らに向かって歩いてきた。
藤堂澄人の目が鋭く光り、本能的に九条結衣を自分の後ろに引き寄せた。深い眼差しで、静かにその数人を見つめた。
十人の男たちは、九条結衣と藤堂澄人の二人を取り囲んだ。明らかに彼らを狙ってきたようだった。
「何のつもりだ?」
藤堂澄人が九条結衣の前に立ち、明らかに彼女を守るような姿勢を取ったことに、九条結衣は一瞬呆然とし、ぼんやりと藤堂澄人を見つめた。
「これは藤堂社長じゃありませんか?」
リーダー格の男が笑いながら、手の中で鉄パイプを弄んだ。
「私だと分かっているなら、誰に手を出していいか、出してはいけないか分かるはずだ」
「ふふ、もちろんです」
リーダー格の男は藤堂澄人に向かってうなずき、「私たちは藤堂社長にご迷惑をおかけするつもりはありません。お側の女性を探しているだけです。藤堂社長、どうか私たち兄弟に便宜を図っていただけませんか」
男は鉄パイプで藤堂澄人の隣にいる九条結衣を指し、目に微かな光を宿らせた。
「私を?」
九条結衣は我に返り、目の前の集団を見つめた。一見落ち着いているように見える瞳の奥に、警戒心が芽生えていた。