「単なる呼び方の問題なのに、結衣はなぜ変えたくないの?」
藤堂澄人は先ほどの「九条社長」を「結衣」に変えた。
九条結衣は彼の質問に言葉を失い、沈黙するしかなかった。
確かに呼び方は大した問題ではないが...今さら昔のように何の躊躇もなく「澄人」と呼ぶことは、どうしてもできなかった。
藤堂澄人は彼女の沈黙を見て、それ以上追及することはしなかった。
彼にとって、九条結衣の今の態度は、自発的なものであれ息子のためであれ、少なくとも以前よりもずっと穏やかになっていた。
食事が終わると、藤堂澄人は九条結衣をホテルまで送ると申し出た。九条結衣は今回は断らず、むしろ非常に快く承諾した。
車がホテルの地下駐車場に入り、二人が続けて車から降りた。藤堂澄人がすぐに帰る様子を見せないのを見て、九条結衣は目立たないように眉をひそめた。