木村靖子が諦めきれないのはもちろん、九条政も諦めきれなかった。父親として、娘に公衆の面前で計算され、さらに人々からクズ男や不倫男女と罵られ、一大グループの会長としての面子が丸つぶれだった。
しかし、九条結衣というこの反抗的な娘は彼を全く恐れておらず、彼も九条結衣の弱みを握れるものは何もなかった。そして今や彼にも分かってきた。
藤堂澄人は靖子のことなど全く気にかけていない様子で、明らかに九条結衣の味方をしているのだ。
藤堂澄人が介入している以上、九条結衣に何かしようとしても無理だ。それに、家の老人もずっと九条結衣の味方をしている。
九条政は考えれば考えるほど腹が立つが、九条結衣に対して何もできず、胸に詰まった怒りの気持ちを吐き出せないでいた。
木村富子は木村靖子よりも空気を読むのが上手く、現状をはっきりと理解していた。無理に九条政に助けを求めても、それは九条政にとって不可能であり、むしろ面子を失って怒りを彼女に向けられる可能性もある。