278.彼に親指を立てる

誰かが藤堂澄人を見つけ、思わず驚きの声を上げ、すでに何人かがこっそりとスマートフォンを取り出して盗撮を始めていた。

「藤堂社長は九条家のお嬢様とは何の関係もないのだから、理由もなく第三者だと誣告するはずがない。つまり、あの女は紛れもない不倫相手だということだ!」

「そうだ、その不倫相手の娘はお嬢様より2ヶ月しか年が違わないんだぞ!くそっ!!!この九条社長はクズ中のクズだな。奥さんが妊娠して2ヶ月のときに不倫して、しかも26年も続けていたなんて、マジかよ!!」

「本当に気持ち悪い男女だな、ふん!」

「不倫相手と私生児を連れて来て、自分の嫡出子を責めるなんて、この九条社長もよくやるよ。」

「不倫相手と私生児の図々しさには呆れるね。」

「……」

周囲からの非難の声は一言一言が胸に突き刺さるようで、先ほどの九条結衣への非難など取るに足らないものとなっていた。

九条結衣も事態がこれほど急展開するとは予想していなかった。藤堂澄人のあの一見何でもない、しかし的確な一言のせいで。

彼女は少し驚いた様子で藤堂澄人を見つめた。ちょうどその時、藤堂澄人も彼女に視線を向け、彼女が見ているのに気づくとウインクをした。

九条結衣:「……」

藤堂澄人は嫌な人だけど、さっきの行動は正直、親指を立てて褒めたい気分だった。

九条政たち三人がここに来る前、まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。最初は九条結衣を非難していたのに。

藤堂澄人のたった一言で、こんなに状況が変わるなんて。

木村家の母娘は周囲からの罵声を聞きながら、恥ずかしさで地面に潜り込みたい気分だった。

なぜ藤堂澄人は九条結衣を助けるのだろう。離婚したはずなのに。

そのとき、ウェイターが藤堂澄人の元に来て、小声で料理を運んでもよいかと尋ねた。藤堂澄人が頷くのを見て、九条政たち三人の方を向いて言った。

「九条社長、他に用がないようでしたら、そろそろお引き取り願えますか。私たちは食事中なので。」

藤堂澄人のこの言葉に、九条政は先ほどの九条結衣の電話での「胃が悪くなる」という言葉を思い出し、顔が青ざめた。

こんな畜生のような娘を産んでしまったとは。いつも、どんな場面でも、彼に対して少しの顔も立てない。