こうして私を置いて行くのか

九条結衣の表情が一瞬凍りつき、意識が一気に覚醒し、夜中に起きた出来事が次々と脳裏に浮かんできた。

彼女は藤堂澄人の腕の中から急いで起き上がり、手を伸ばして彼の額に触れ、体温が正常に戻っているのを確認してようやく安堵のため息をついた。

手を引こうとした瞬間、大きな手のひらが彼女の手の甲を覆い、彼の額に押し当てたまま離さなかった。

「目が覚めたか?」

魅力的な声は、目覚めたばかりの掠れた色気を帯びており、九条結衣の心を揺さぶった。

藤堂澄人が目を開けると、陽の光が彼の濃い睫毛に差し込み、目の下に美しい影を落としていた。

九条結衣の視線は、図らずも彼の漆黒の瞳と重なり、それまで落ち着いていた心に小さな波紋が広がった。

不自然に視線を逸らし、さりげなく藤堂澄人の手から自分の手を抜き、平静を装って言った。「熱は下がったわ。後で医者に診てもらいましょう。」

そう言うと、ベッドから降りて足早に洗面所へ向かった。その明らかに逃げ出すような後ろ姿に、藤堂澄人は思わず軽く笑みを漏らした。

九条結衣は鏡の前に立ち、素早く顔に冷水を浴びせ、ようやく藤堂澄人によって引き起こされた動揺を抑えることができた。

このような感覚を覚えてからどれほどの時が経ったのか思い出せなかった。自分が確信していた心の平静は、実は存在しなかったのだと。

ただ強い態度で、藤堂澄人に対する本当の気持ちを隠していただけだった。

それに気付いた九条結衣は眉をひそめ、さらには恐れの感情が心の底からじわじわと広がり始めるのを感じた。

洗面所で長い時間を過ごした後、やっと身支度を整えて出てきた彼女の表情は、すでに平静を取り戻していた。

まだベッドに座ったまま慵懒な様子の藤堂澄人を見て、彼女は言った。「私、これから用事があるの。運転手さんに電話して迎えに来てもらって。」

九条結衣の平静な口調に潜む疎遠な雰囲気を察知し、藤堂澄人の眉間にかすかな皺が寄った。

彼はベッドから起き上がり、大股で彼女に近づいた。その大きな体が九条結衣の前の陽光を遮り、彼女の頭上に影を落とした。

「こうして置いていくつもりか?」

低い声音には、かすかな不満が滲んでいた。