「九条結衣!!」
九条政は怒りのあまり席から立ち上がり、九条結衣を指差しながら、その手は激しく震えていた。
傍らの木村靖子も怒りで顔が青ざめ、この瞬間、九条政が九条結衣の頬を平手打ちにしてくれればいいのにと願っていた。
しかし、彼女が期待して待っていても、九条政は歯ぎしりしながら九条結衣を指差すだけで、手を上げることはなかった。
それどころか九条結衣は、落ち着いた表情で終始にこやかな様子を見せ、九条政が立ち上がるのを見ると、彼の側まで歩み寄り、議長席に座った。
「九条社長はお気が利きますね」
九条結衣が議長席に座るのを見て、九条政はついに我慢の限界に達し、手を上げて九条結衣の顔を平手打ちにしようとした。
九条結衣も避ける様子がない中、皆が次の展開を見守っていた時、入り口から低く冷たい声が響いた——
「九条社長、何をなさっているのですか?」
振り上げた手がまだ落ちていない状態で、九条政のまぶたが激しく震え、高く上げた手が宙に凍りついたまま、降ろすことができなかった。
その声を聞いて、九条結衣も少し意外な様子で、九条政の向こう側にある入り口の方を見やった。
松本裕司に付き添われた藤堂澄人が会議室の入り口に立ち、その大きな体が外の全てを遮っていた。
鋭い目つきで出席者全員を見渡し、最後に九条政の既に気勢の失せた顔に視線を止めた。
たった一目で、九条政は自分の心臓が激しく震えるのを感じた。その圧倒的な威圧感に、彼の中の怒りは一瞬にして萎えてしまった。
「藤堂社長、どうしてここに?」
藤堂澄人の突然の出現に、会議室の人々は驚きと喜びを隠せなかった。
結局のところ、九条グループの株式の15パーセントを保有しているにもかかわらず、これまで一度も株主総会に姿を見せたことのない人物だった。
今日は九条お嬢様だけでなく、藤堂グループのトップまでもが現れるとは誰も予想していなかった。
株主たちは次々と立ち上がって藤堂澄人に挨拶をし、露骨な追従の態度を見せたが、彼は完全に無視した。
木村靖子も藤堂澄人が来るとは思っていなかった。以前なら喜んだかもしれない。たとえ藤堂澄人を利用して九条結衣を牽制するだけでも満足だったはずだ。
しかし今は、藤堂澄人の出現が九条結衣の勢いを助長するだけだということを深く理解していた。