九条政は一瞬固まり、九条結衣の意図を理解する前に、彼女がもう一度「これは私の席です」と繰り返すのを聞いた。
「何だと?」
九条政の表情が曇った。
今彼が座っているのは取締役会議長の席だ。この生意気な女がいつからここに座れるようになったというのか。
「結衣、これは議長席よ。あなたがここに座るなんてあり得ないわ」
九条政が口を開く前に、取締役会長のお気に入りの娘という立場を利用して、木村靖子が飛び出してきた。
九条結衣は眉を上げて彼女を見つめた。そのとき、入ってきたばかりの秘書が、印刷した書類を全ての株主に配り終えていた。
騒ぎ立てる木村靖子を完全に無視し、九条政を見つめながら、顔に嘲笑を隠そうともせずに言った。「母さんはあなたの面子を立てて、この席に座らせてくれたけど、申し訳ないけど、私にはそんな余裕はないわ。あなたの能力ではこの席に相応しくない。立ちなさい」
九条政は、これだけの株主の前で九条結衣に面子を潰され、怒りで顔が青ざめた。
「結衣、お前はその生意気な口だけで、私にこの席を譲らせられると思っているのか? 分不相応だ!」
九条政の様子は少し取り乱していて、彼の言葉に会議室の株主たちは眉をひそめた。
父親が自分の娘を「生意気」と形容するなんて、この九条政という人物は、ますます品格を失っていくようだ。
「九条グループの筆頭株主である私には相応しくないって?」
九条政の取り乱しぶりとは対照的に、九条結衣は終始冷静な表情を保ち、しかし彼女から放たれるオーラは、九条政を完全に圧倒していた。
この言葉を聞いた九条政と木村靖子は、怒りで顔が歪んだ。
誰も九条結衣が冗談を言っているとは思わなかった。なぜなら、先ほど秘書が配布したのは株式譲渡契約書だったからだ。
そこには明確に、小林静香が保有していた20パーセントの株式を九条結衣に譲渡したことが記されており、九条結衣が元々持っていた15パーセントと合わせると、現在彼女は35パーセントの株式を保有している。
まさに会社最大の株主というわけだ。
九条グループでは、株式保有率が30パーセントを超える株主は相対的な支配権を持ち、会社の一部の意思決定に決定権を持つ。
たとえば、九条政が先ほど提案した「怪しげな研究所」への投資開発の件も、九条結衣一人で否決できる。