九条結衣も藤堂瞳がこのような状況で現れるとは予想していなかったため、すぐに眉をひそめた。
さりげなく藤堂澄人を睨みつけながら、人に見られないはずじゃなかったの?
痛くない?痛くないのかって聞いてるの!
この時の九条結衣は、藤堂澄人の頬を平手打ちしたくて仕方がなかった。痛くないのかって聞いてやりたかった。
藤堂澄人の表情も良くなかった。
ここで大人しく妻と仲を深めようとしていたのに、こんな部外者が勝手に入ってきて邪魔をするなんて。
たとえその「部外者」が実の妹であっても、今の藤堂澄人は殺してやりたいほどだった。
「藤堂瞳、誰が許可を出したんだ、ノックもせずに入ってくるなんて!」
彼は九条結衣を降ろす気配もなく、低い声に怒りを押し殺していた。
そして藤堂瞳の隣に立っている木村靖子のことは完全に無視していた。
藤堂瞳はようやく先ほどの衝撃的な光景から我に返り、即座に表情を変えた。
彼女は藤堂澄人の言葉を無視し、オフィスデスクまで駆け寄ると、藤堂澄人に抱かれている九条結衣を指差して怒鳴った:
「九条結衣、恥を知りなさい!お兄さまと離婚したくせに、まだお兄さまを誘惑するなんて!」
元々藤堂澄人の腕から降りようと抵抗していた九条結衣は、藤堂瞳のこの頭の悪い非難を聞いた途端、動きを止めた。
誰があんたの兄貴を誘惑してるって!バカ!
九条結衣は心の中で思わず罵詈雑言を吐きながら、表面上は優雅に微笑み、藤堂澄人の襟を掴んでいた手を、そのまま彼の首に回した。
藤堂澄人:「……」
さっきまでこの女は明らかに降りようと抵抗していたのに、今こんなに積極的になるなんて……
藤堂澄人は一瞬体を硬くしたあと、唇の端を上機嫌に上げた。
「離婚したからどうだっていうの?今私もシングルだし、お兄さまもシングルよ。男女の関係を楽しんじゃいけないの?」
そう言いながら、藤堂瞳の怒りに満ちた視線の中、顔を上げて挑発するように藤堂澄人の顎にキスをした。
まさに男女の関係を楽しもうとしていた藤堂社長:「……」
実はもっとキスしてくれてもよかったのに。
一方、藤堂瞳は九条結衣の行動に目の前が真っ暗になり、気を失いそうになった。
「九条結衣、あなた……恥知らず!!」