312.出て行け

一体誰が誰を怒らせているのか?こんな頭の悪い女を、植田涼はどうして好きになったのだろう?

九条結衣は藤堂澄人から離れようとし、彼女の意図を感じ取った藤堂澄人は、今回は無理に抱きしめることなく、彼女を下ろしてやった。

その後、内線を押して、「今後、下の警備員は出勤しなくていい」

藤堂澄人のこの言葉を聞いた藤堂瞳は、再び信じられない様子で目を見開き、鋭い声で言った。「お兄ちゃん、どういう意味?」

警備員が彼女を止めなかったことを責めているの?

彼女は藤堂グループのお嬢様なのに、今まで会社に来た時、誰かに止められたことなんてあった?

「勝手に私のオフィスに入ってきて、まだ何の意味かなんて聞く顔があるのか?」

藤堂澄人は冷たい目つきで、怒りで青ざめた藤堂瞳の顔を警告するように見つめ、低い声で言った。

「私は...私はお兄ちゃんの妹よ、どうして来ちゃいけないの?」

藤堂瞳は目に涙を浮かべ、悔しそうに赤くなり、彼の傍にいる九条結衣を指差して、「あの女は来ていいのに、どうして私はダメなの!」

「お前が私の妹だということはわかっているんだな。余計な口出しを私にまでしてくるとは、私が警告した言葉を全部忘れたのか?」

藤堂澄人は漆黒の瞳を細め、目に苛立ちの色が浮かんだ。

九条結衣は彼らの言い争いを聞くのが嫌になった。藤堂澄人の言葉に従って会社に来るべきではなかった。彼のこの元気な様子は、重傷を負っているようには見えない。

テーブルの上のバッグを取って帰ろうとしたが、手首を藤堂澄人に掴まれた。「どこへ行く?」

「ここはうるさすぎる。煩わしい」

彼女は眉をひそめ、嫌悪感を隠すことなく表現した。

「九条結衣、あなた...」

藤堂瞳が突進しようとしたが、藤堂澄人に遮られた。

「お兄ちゃん?」

「出て行け」

藤堂澄人の目が沈み、その威圧的な雰囲気が藤堂瞳に向かって押し寄せた。

「お兄ちゃん!」

藤堂瞳は信じられない様子で藤堂澄人に叫んだ。「私はお兄ちゃんの実の妹よ。九条結衣なんて何者でもないのに、どうしてこんなに庇うの?私が怒り死んでからじゃないと気が済まないの?」

「藤堂瞳!」

九条結衣はついに我慢できなくなった。この馬鹿は毎日彼女を見るたびに騒ぎ立てる。前世で山奥に売り飛ばして子守り娘にでもしたというの?