「藤堂澄人!」
九条結衣の顔が、さらに暗くなった。
彼女はどうしてこの男の自作自演を信じられるのか。この男はずっとこんなに厚かましくて悪質なのに、どうして彼を信じられるのか。
「出て行くの?出て行かないの?」
九条結衣は歯を食いしばって彼を睨みつけた。
「出て行くよ、もちろん」
藤堂澄人は笑い出し、その目の奥に一瞬よぎった意地悪な笑みに、九条結衣は背筋が凍り、不吉な予感が走った。
「どこで転がりたい?どんな体勢で転がりたい?僕は何でも付き合うよ」
その言葉が落ちると、九条結衣の顔は、見事にまた暗くなった。
彼女は彼にひどく腹を立てた。こんなに厚かましい人間を見たことがなかった。
選べるなら、目の前の彼が4年前の高嶺の花のままでいてくれた方が、こんな図々しくて厚かましくて手に負えない藤堂澄人を見るよりましだった。
藤堂澄人は身を屈めて彼女の怒りに満ちた瞳と視線を合わせた。以前のように彼を見る時の冷たく距離を置いた眼差しと比べて、今の九条結衣の目の中の怒りの炎は、藤堂澄人の気分を特別に愉快にさせた。
そしてその愉快さは、すぐに実際の行動となって表れた。
九条結衣が全く予期していない時に、彼は突然身を屈めて、彼女を社長椅子から抱き上げた。
九条結衣は驚いて、思わず彼のシャツを掴んでしまったが、自分の行動に気付いた時、再び顔を曇らせた。
「また何をするつもり?」
彼女は歯を食いしばって、怒りを必死に抑えた。
「君が出て行くかって聞いたんじゃない?中で転がろう、中にはベッドが大きいから」
彼は抱きしめた九条結衣を強く抱き締めながら、顎で隣の部屋を指し示し、目の奥の深まった笑みには、隠すことのない艶めかしさと色気が加わっていた。
九条結衣は顔を曇らせ、何度も深呼吸をして、やっと怒りを収めることができた。
彼女にはわかった。藤堂澄人というやつは精神異常者で、彼女が怒れば怒るほど、彼は楽しんでいるのだろう。
しばらく考えた後、彼女は藤堂澄人の笑みを帯びた目元を見上げ、冷静に言った。「降ろして。ここは会社だから、人に見られたら良くないわ」
「見られなければいいんだ」
藤堂澄人のこの言葉は、特に理不尽で、九条結衣は彼の言葉に詰まって再び顔を曇らせた。
怒ってはいけない、怒ってはいけない。