彼女は前に出て、木村靖子を引き戻した。「お兄さんにそんなこと言って何になるの?自分から恥をかくだけじゃない?」
プッ——
九条結衣でさえ心の中で笑いを抑えられなかった。木村靖子が藤堂瞳の言葉で顔を歪めているのを見て、思わず瞳に拍手を送りたくなった。
「行きましょう」
藤堂瞳は木村靖子を引っ張って、怒り心頭で藤堂グループを出た。道中、多くの人が二人を奇異な目で見ており、藤堂瞳は自分がどれほど恥ずかしい思いをしたか言うまでもなかった。
木村靖子はさらに怒りで顔を歪めていた。藤堂瞳のこのバカ、さっきの言葉は何のつもり?
自分から恥をかく?
彼女は九条家の次女で、藤堂瞳に何も引けを取らないのに?
何が自分から恥をかくだって?
もし本気で植田涼と結婚したいと思えば、藤堂瞳のような人に振り回されるバカな頭じゃ、勝負にもならないのに。
そう考えると、木村靖子の脳裏に植田涼の顔が浮かんできた。
藤堂澄人には及ばないものの、一級品のルックスで、しかも植田家の唯一の後継者。その身分や背景も藤堂澄人に引けを取らない。
残念ながら、藤堂瞳というバカに先を越されてしまった。
彼女は藤堂瞳を見つめ、このバカのどこがいいのか分からなかった。植田涼が宝物のように大事にしているのに。
もし植田涼と……
木村靖子の頭の中に、そんな考えが突然浮かんだが、それほど強くはなかった。
彼女は藤堂澄人に多くの労力を費やしており、そう簡単には諦められなかった。
九条結衣が自分より良い暮らしをしているのを見たくなかった。
そう考えながら、彼女は先ほどの藤堂瞳への怒りを抑え込んだ。顔を上げると、また例の恵まれない表情を浮かべた。
「瞳、もういいわ。澄人さんはお姉さんと復縁する気満々なのよ。もう私たちを引き合わせるのは止めましょう。私と澄人さんは……縁がなかったってことにしましょう」
そう言いながら、彼女は目を赤くして、顔を別の方向に向けた。
藤堂瞳はさっきまで怒り心頭で、木村靖子が自分の夫を軽蔑していることに腹が立っていたが、今の様子を見ると心が和らいだ。
お兄さんにあんなに恥をかかされたのに、彼女を責められないわ。
自分の夫を軽蔑するのも構わない、少なくとも植田涼に目をつけないってことだもの。
そう考えると、藤堂瞳の気持ちは随分楽になった。